第拾四話 夢のはじまり
ゆめのはじまり


そして、世界が変わった。

嘘ではない。

本当に変わった。具体的にはあの瞬間――サッシと呼ばれた少年が、古い陰陽道の言葉を唱えた瞬間に、変わったのである。

それに気づいた人間は、いなかった。

いや、その瞬間を見ていた人間はいたのだが――

彼らが気づいたときにはもうその少年達は陽炎のように消えてしまっていたし、記憶を頼りに捜索しようにも、顔の感じはもとより、何もかもの記憶が曖昧で、まるで狐に騙されたかのように全てがぼんやりとしていた。


そして、そこに実物として残されたのは――。


山に、アイロン型の謎の建造物。


湖に、腕組みした謎のロボ。


……という、よくわからない取り合わせだった。あと他にもなんかもしかすると色々あるのかも知れないが、とりあえず物忘れの激しい彼らの目に付くものはそれくらいである。


「ねえマコっちゃん。あれ、使徒……かな?」

「さ、さあ……」


それらが何を意味するものか――世界は、まだ、知らない。



☆ ☆ ☆



説明をつけてもらえると思った事態に対して、僕もしらなーい、といわれた時の反応は少なくとも二種類はある。

ひとつは、事実を受け止めてしまってアテがはずれ、呆然とすること。

もうひとつは、事実を受け止めず、嘘だと追及すること。


アスカについては前者だった。


なぜならアスカには、彼が嘘を吐いていないことなどはすぐにわかったからだ。


「え……なにそれ」


だからアスカの反応はそういう感じだった。


「え、ではない。私が言っているのは量産機についてその弁償を求める書類であって、そんなわけのわからない書類は知らん。少なくともゼーレは関知してはおらん」

「え、でもじゃあ、これは?」

「さあ……」

「さあじゃないわよ!」

「怒鳴るな! なんと言われようと知らんと言ったら知らん! 碇の差し金か何か知らんが、そんなことで自分にかかっている借金が帳消しになると思ったら大間違いだぞ、惣流・アスカ・ラングレー!」


言い捨てて、バイザー越しに睨まれる。

一寸の虫にも五分の魂。

今はアスカの方が混乱しているので、もう少し頑張ることができた。


「……『あれ』の訪れも近いというのに、碇は全く何を考えているのか……」


老人は酷く不安そうに、ぽつりとそう呟いた。彼らが拒否した、弱い人間そのもののため息と共に。


「アレ、って?」

「やはり、お前達は何も聞いておらんのか。『あれ』の――『宇宙が見る夢』が呼び出した、あの怪物のことを。このふざけた茶番の主人公のことを、何も――」


フオン。


唐突にキールの映像がモノリスへと変化し、その石版もまた消滅した。

部屋が明るくなる。

アスカはシンジと顔を見合わせた。


「何? これ」


さきほどの。静かで冷たい。蔑むような、あるいは何かを観察しているような能面の笑顔を思い出して、シンジは一瞬身をすくませた。……が、すぐに「答えないこと」から導かれる実際的な脅威を思い出して慌てて答えを返した。


「さあ……自分で切った、って感じじゃあ、なかった。けど」

「そうよねー」

「あ」


ん?

振り向いた先、声を上げたのはケンスケだった。アスカが力にものを言わせて同室を許可させた記録係である。


「どうしたの? ケンスケ」

「……いや、キール議長って、ドイツにいるんだろ。だからだよ。衛星通話は、ほら――」


ケンスケが見せたポータブルテレビ(こいつ、暇だからってそんなもん見てたのか)には、「太陽風フレアの影響により衛星放送は中断されています」という表示が出ていた。



☆ ☆ ☆


(CM)


THE COMPETITION OF EVANGELIONは現在、採点期間中です!

作品を読まれた方は、ぜひぜひ採点をお願いします。


……だから、みんな採点してしまえばいいのに。


(/CM)



第拾四・五話 現実の続き
げんじつのつづき


モニターを睨んで、赤木リツコは沈黙していた。


あれは何だ。


モニターの向こうには、望遠レンズで何かが捉えられている。


あれは何だ。


恐らくは、太陽の異常活性の遠因にもなっているであろう、物体である。


しかし、あれは何だ。


何度考えても、リツコはそう思わずにはいられない。

映像を頼りに、MAGIが解像度を上げていく。エヴァのカメラアイにも用いられてる技術を応用したレンズが捉えた映像が、さらに細かく、その造形をも確認できるほどに拡大されていく。


そしてリツコは改めて思う。


この非常識な物体は、一体なんなのだ?


そこに映っていたのは、まるで生物のような姿かたちをした使徒のような生命体で――


「駄目です、変化ありません。パターン未登録――アンノウン、全く未知の生命体で、使徒ではありません。……強力な重力波を発生させて、雷王星の周辺からこちらへ……地球へ光速の10数パーセントの速度で接近中」

「雷王星?」


はて、そんな星があっただろうか?


「はい。間違いありません、雷王星です」

「……この星が?」

「先輩、しっかりしてください! そうです。雷王星です! 太陽系第十三惑星の雷王星から、変動重力源が迫ってるんですよ。先輩!?」


もはや悲惨な声で叫んでいるマヤの声が、なかなか耳に入ってこなかった。


雷王星……


そんな惑星があるなど、聞いたことがない。

少なくとも科学者、赤木リツコは、今まで、聞いたことが――あれ?

聞いた覚えがある。


駄目だ、疲れているのだろうか。それとも、ついさっきのドタバタを引きずって、この振って沸いた緊急事態に対処できないでいるのか?


惑星が冥王星までだなんて、そんな馬鹿なことを考えるなんて。


……実際のところ、リツコは人類の中で一番最後までその記憶を保持していた人間だった。

けれどもその記憶も消え、世界は完全に変わった。


しかし、それが何故起こったのか。そして、何処へ向かうべきなのか。


世界も人々も、いまだ知らない。



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first update: 20070515
last update: 20070515

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