第弐拾話 おおきく振りかぶって!
おおきくふりかぶって


そしてサッシは言葉を飲み込み――思い切りのいいケツバットの一撃を受けた。


「なーにを、えらそう、にッ!」


サッシは思いっきり前につんのめり、ミサトの胸に顔から突っ込んだ。


(こいつ……ッ!)


そう日向が思うより早く、蹴り足の主が追撃の一言を放った。


「うおわっ!? 何すんねんアルミちゃん! せっかくボクがカッコよう決めたとこやったのに!」

「せやからじゃ! 何カッコつけて『苦労したと思いますわ……』とか言うとんねん。ほんなもん、なんもかんもぜえんぶ、ユータスのゆーたことのウケウリやないかっ! 葛城さん、こんなチンチクリンなんかどないでもしたってください」

「ひどい、ひどいわアルミちゃんっ。ボクがせっかく……て、自分もヒールホールドかけられとったのに」

「せやなー……でもよう考えてみてん、するとなサッシ。あんな痛い思いしたんも、そもそもあんたが葛城さんを攻撃したから……もっと言うと、そもそもあんたが術に失敗したからこうなったて気づいてん」

「そないな無茶な……」

「何か文句あんのか」

「あ、ありません……」


ううう、とすすり泣くサッシの姿はさっきの底知れぬ子供というイメージからは遠かった。

ああ、この子達も――あの子たちと似たような歳なんだ。

そう考えると――初めて気負わずに、この子と話ができるような気がした。


「……あら、お姉さん。怖い顔」


われに返ったように、毒気の抜けた顔でサッシは言った。

そしてミサトはにっこりと菩薩のような笑い顔をつくり、それを見て恐れをなしたサッシの肩にそっと手を置いた。


そして鎖骨が割れんばかりに指に力を込める。


それは菩薩の仮面を被った鬼だった。

鬼。サッシが使役できるような鬼ではなく、まるで閻魔大王のような――

どうして数時間前、自分がこの化け物と相対することができるなどと考えたのか、今のサッシにはもうわからなかった。


「そうよ。お姉さんはこっわーーーーいのよん。……で? サッシくーん。こっわぁーいお姉さんの強い味方になるのか、髭のおじさんの味方になってお姉さんの、テ ☆ キ ☆ になるのか。どーっちーかな? はい、どっちーかな♪ あ、さって♪ どっちっかなー……♪」


そしてミサトはサッシがチビるのに十分なくらいゆっくりと、じりじりと、たっぷり時間をかけてサッシの顔に自分の顔を近づけてゆく。



☆ ☆ ☆



「あーっるえー?」


部屋いっぱいに間の抜けた声が響く。

しかしそれに真っ先にツッコミを入れそうなアスカはまだピクピクと痙攣を繰り返していた。


「何」

「いんやー……なんっつーか、こっねーんだよねえー」

「何が?」

「んー……いやー……こう、ロックでぇー、超かっこよくてぇー……」

「何、ノロケ?」


どうもラチが明かない。ハルハラハルコと名乗った女は、ゴーグルを外して呟いた。


「やぁーっぱし、行っくしかねーかなぇー……」


誰にも聞こえぬ小声で呟いて、ハル子は背中に負ったリッケンバッカーを背負いなおし――素っ頓狂な声で叫んだ。


「ダメだ! 処置が遅すぎたのだっ! 既にこのシンタロウくんは完璧にシンちゃん的に死ん、で、いっるぅぅぅぅぅ!」


「「「「「「「お前がここまで引っ張ったんじゃねーか」」」」」」」


と全員が心中でツッコンだが(アスカ除く)、というか死にそうなのはむしろアスカのほうでシンジはちょっと薄目を開けかけているのだが、そんなことはお構いなしでハル子は頭を抱えてうんうん唸っていた。


「ああ、殺してしまった。殺してしまったのだった。いやあ、殺してしまったのである。いやいや殺してしまったんだぜコノヤロー。いや殺してつかまつった、いやいやいやいや……」


なんだか知らないが妙な姿勢で転がりまわり――そして、しゅび! と立ち上がって、


「そういうワケで諸君! このシンタロウくんはこのハルハラハル子が預かったぁ! ってことでヨロシク!」


叫ぶや否や彼女はシンジを抱えてべスパにまたがり、何故か一瞬でエンジンをかけるのに成功して、


そのまま部屋から飛び出した。


「!?」


こいつこの状況を放り出してどこ行くんだ!


マナもマユミもヒカリもトウジもケンスケも、カヲルやレイさえ――その行動に唖然として動くこともできなかった。


――が、それを見逃さなかったものが、一人。


「……まてゴルア!!!」

「うぼあっ!」


べスパが吹っ飛び、ヘルメットを被ってない女の頭がコンクリにごりごり擦る。


「逃っがすかああ!!!」


アスカだった。


額から血をだらだら流したアスカは、壮絶な笑い顔で叫んだ。


「レイ! あんたも後でぶっ殺すけど、あんた!」


びしい! と頭を押さえて転がりまわってるべスパ女を指差した。


「絶対逃がさん! ――ミサト!」

「あいよ」


がし、と。

転がるハル子の背を抱え上げ、ホールドしたのはミサトだった。



☆ ☆ ☆



「つっかまえられちゃったぁ……へっへー、がくっ!」

「なあに? あんた。ぶらぶらしちゃって」

「っていうか誰ですか、このひとは?」

「不審人物よ。ミサトにそのヒモ男! なんであんたがいながら……」

「仕方ないじゃない。あんたら知らないかもしれないけど、今、上大変なことになってんだから。この子達のせいで」

「そんなん言わんといて下さいよぅお姐さん。ボクのせいちゃいますて、ほんま」

「何言うとんねんアンタのせいやないの。て、あ、さっきのスカしーの二人組みやん! こんなとこおったん?」

「ええ」「久しぶりだね」

「あら、関西弁ですね」

「あんたたち、こいつらんとこ言ってたの? 途中いなかったと思ったら……」

「そうですねん。あはは」

「男の子で関西弁……。あのさ、トウジ、もしかして……」

イインチョ、それはなしや! キャラ被ってるとか言わんといてくれ!

「自分で言ってるわよ、あんた……」

「あれ? そこのジャージのお兄ちゃんも関西弁やん。キャラ被っとんなあサッシ」

止めてやアルミちゃん! キャラ被ってるとか言わんといてくれ!

「あ、この子鈴原と丸々おんなじこと言った。キャラ被ってるじゃん普通に」

「そうだなあ。諦めろよトウジ」

「「せやから、やめてくれ!!!」」

「う、死ぬかと思った……と、あ、ユニゾンしたね、いま」

「「まねすんなボケー!!!!」」


とまあ、チルドレン達9人+ミサト達4人の総勢13人を抱えた部屋はごった返し、収拾はつきそうになかった。


が、それでは話が進まないので、というわけでもないが――


「で、あのエヴァを起動させる泰山府君祭を開くには、何がいるんだっけ? サッシ君」


そうだった。

サッシから話を聞き出し、それでもなお彼女達が地下へとやってきた、その理由――


「えー、なんちゅうんか、この世界で生贄になるもんを呼び出さんといかんのですわ」


ということだった。しかし、彼自身はそういうものは呼び出せない、という。


「この世界のもんを材料に何ぞ創ることはできるんですけどねー。ボクが創ったもんを生贄にするっちゅうんは、つまりはボクを生贄にするっちゅうことやから……」


そういうわけで、他の世界から呼び出せる者が――「渡る者」が必要なのだと言う。


「あー、それもしかしてわーたくしっスかねー」


ひょこん、と回想にハル子が口を出した。


「あ、そーなの?」

「たぶんそーじゃない、かにゃ?」

「そっかー。じゃあ、ヨロシク頼むわ」

「ガッテン承知のすけぇーい」


……なんてこった!

周りがそう思ったのも無理はない。ここまで誰もまともにコミュニケーションを取ることができなかった相手と、まるで同一人物のモノローグのごとくツーカーで意思疎通を果たしていたのだから。


で。何か通じるものがあったらしい二人は、結果として――


「あっれぇ〜? これも駄目ったにゃー」

「駄目かあー。しゃあない。よーし、次行ってみようかあー!」

「っしゃーい!」

「ちょっ、まっ!」


ぎゃいーーーーーーーーーーーーーんっ!


二人して子供たちを狩りまくっていた。

最初から弱いシンジ、ちょっと弱ってるアスカを手始めに、男性陣、女性陣、果ては――


「ちょお、言うたやん、ボクは――」


「問答ッ!」


ミサトが声を掛け、その後を、ハル子が続ける。


「むっよぅーんっ!」


そしてハル子のリッケンバッカーが吸い込まれるようにサッシの額に激突し、子供たちは揃って深い眠りに突入することになった。


外の世界ではもう日も昇っている、かくし芸大会前日の朝のことである。



☆ ☆ ☆



「……子供たちは眠りについたそうだ。碇……碇?」

「ああ。問題ない」

「眠っていたのか?」

「予定通りだ」

「……まあそれはいい。あの子らが起きる頃にはエヴァと生贄の準備も完了しているだろう。あのガンバスターも、既に宇宙に在る……碇? 聞いているか?」

「ああ……問題……」

「お前はもう寝ろ、碇。――明日は長い一日になるぞ」



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first update: 20070515
last update: 20070515

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