第弐十壱話 決戦、大宇宙
けっせんだいうちゅう


「あってなるこの世のもの」




「なってあるあの世のもの」




「「天尊神、地尊神」」




「「成るように、あれ!!!」」





少年と少女――今宮サトシと朝比奈アルミが両手を向かい合わせに繋ぎ、そう唱えた時、継ぎ接ぎだらけのエヴァンゲリオンの目に光が宿った。

それどころか、拘束された鎧の下で筋肉が膨張して、両手を持ち上げようとした。もがいている。もっというのなら、暴れようとしている。暴れようにもそれができないから、ごぞごぞと、まるでゴキブリホイホイにかかったゴキブリのように蠢いているのだ。いやま、エヴァンゲリオンがゴキブリのような等と言えてしまうのは、外から映像でそれを見ているガンバスターくらいだろうけど。平均40メートルの体長のエヴァもたいがいデカいが、200メートルのガンバスターはさらにデカい。まあ、画面の都合でエヴァとガンバスターが並ぶとあんまり変わらないように見えるのだけど、それはどうでもいいことか。


とりあえず、サッシとアルミは自分たちの術によって動き出したエヴァを見て一言。


「「キショッ」」


……と、まったくもって容赦のない感想をもらした。

さすがは世界で最も容赦ない人種である大阪人だけある。もっとも、彼らがいうのならば「ボクらより河内の連中の方が」とのことであるが、この世界ではセカンドインパクトやらなにやらで大阪もほとんど残っていないので、検証は不可能である。

とりあえず、陰陽道の「術」によってこのエヴァになんかタマシイっぽいものを吹き込んだのであるが。


『今宮くん、パッチのコントロールはできる? ちょっとでいいんだけど』

「あ、はいはい、赤木博士、ちょっとだけなら」

「……できるん?」

「なんとかやってみるわ」


サッシは一人で印を組むと、ぶつぶつと呪文を唱えた。何処で覚えたのやらとアルミは思う。この幼馴染は、自分の知らないところで何かいらんことを覚えてくる。昔はせいぜいが特撮怪獣の名前とかであったが、今では陰陽道だ。挙句にこんなところまできくさってから……ふと、見わたす。


(……というても、名残惜しいわな)


額を撫でながらもそんなことを考える。意識の中ではつい十数分前――実際にはそのまま寝込んでしまったので、かれこれ十時間ほど前だが――にいきなりぶったたかれたことも、今となってはいい思い出……というにはまだズキズキと痛むが、きっと元の世界に帰れば懐かしくなるのだろう。多分。

サッシの方を見ると、うむむむむむむむと念じてエヴァンゲリオンを誘導している。

何か動かない人形を無理に動かしているようなぎこちなさで、エヴァは目の前に差し出されたエントリープラグという細長い管に手を伸ばしていた。

そして。

掴んで。


「おっし!」


サッシが刀印を上から下へと切り落として。




ぱっくんちょ




飲み込んだ。


「成功!」

『んなわけあるかー!』


スピーカーの性能限界のせいか、リツコの声は最後の方はまともに聞こえなかった。なんかやっすい拡声器を通しているみたいだ。メンテが必要ねーと現場でぼんやりと見ていたミサトがのんびり考えているのだが、当然、そんなことは口にしない。どんなに小さな声で言おうと、彼女の親友たる赤木リツコ女史は聞き取ってがなりたてるに決まってる。

あれの地獄耳は学生時代からよく知っているのだ。

あ、ちなみにメンテがどうこうというのは、本部施設がいい加減にエヴァとか使わないからという理由で予算がなくて老朽化しているということからである。当時は最新の設備であったのだが、やっぱり調整のための人件費をひねり出せないものだから、どうしても毀れてしまうのは仕方がないのだった。


「えー? エヴァってこんな風に乗り込むんちゃうんですか?」

『そんな話をどこから聞いたのよ!?』


あ、リツコがエヴァを誘導云々と頼んだのは、エヴァをコントロールして暴れださないようにしておいてとかの意味であって、動かして直接飲み込めなどということではない。

まあ、思ってた以上にスムーズに動かしていたので、好奇心にかられてついつい黙ってみてしまっていたのだが。そのまんま首の後ろに上手くはめ込んでしまいそうな気がしたのである。

さらに文句を言い重ねようとした時、


『あの先輩、エントリープラグ、装填されました』

『どうやって!?』

『え? さあ……』


「ま、陰陽道だもんねー」


すっげーなげやりにミサトは呟く。

ことここに至っていちいちその程度のことで驚いてどうするのかという風である。順応

しているにもほどがあった。


(まあ、アスカは眠らせといてよかった)


そうなのだ。

アスカはあのハルハラ・ハル子にぶったたかれてからこっち目を覚ましていないのだ。

いやまあ、他のチルドレンたちもであるが。それは別にダメージが残っているとかでなくて、意図してそうしたのである。具体的には麻酔注射。特に念入りにアスカには麻酔した。かつて暴れ始めた時にはシロサイ用の麻酔を数初打ち込んでなお、五時間とかけずに目を覚ましたという怪物である。通常、そんだけの麻酔をかけられたら人間なら死ぬのだが、ただ眠るだけで済むというあたりがまさに地上最強の生物であった。つか、非常識にもほどがあると悩むくらいである。もしかしたらドイツ支部が改造手術でも施してたりしてないだろうなあ……などとミサトは思ったものだが、致死量の麻酔を撃つ作戦を立案・指揮・実行の全てはこの女がやったのである。非常識という点では負けても劣ってもいない。

んでまあ、アスカのことだから文句ぶーたれていただろうことは疑いようもなく、きっと今のようなやり方をしたらごっつい叫んでいたに違いない。


『……んにゅう……シンジ……朝から駄目よ……』


どういうところに触ったのかは不明だが、プラグ内の音声を拾ってスピーカーが放送しだした。


『マヤ、どうなってるの?』

『あー、アスカがどうも動き回っているみたいでボタンに触れたみたいです』

『…………脳波の波形がレム睡眠になっているわね……寝言かしら。計算ではまだノンレム睡眠で、あと30分は起きないはずなんだけど』

『まあ、アスカですから』


(アスカだもんねえ)


ミサトは深く頷いた。

アスカのやることをいちいち驚いては到底もたない。


『んふ……駄目だってばあ……そんなとこ……やん』


「……なんや、頭ん中ドピンクなっとんちゃうか?」


アルミは顔をしかめて放送を聴いていた。

決してとめろとか言わないあたりが思春期の好奇心満載少女である。

ちなみに彼女と同じくお下げ頭の洞木ヒカリはといえば、「ふ、ふけつ……」といいながら耳を押さえていやんいやんと首を振っていた。マユミとマナも顔を真っ赤にしていて聞いてたりする。


『舐めろってそんな……ふふっ……こんな、堅くて、おっき……』


そろそろ起こした方がいいわねー、とミサトは呑気に思った。

何故だかタバコが吸いたくなってきた。


『ん、じゃあ、私のも……一緒にね……』



☆ ☆ ☆



『自己紹介するわ。私がアマノ・カズミ。ガンバスターのパイロットです』

『同じく! タカヤ・ノリコです!』


アスカはすっげー不機嫌な顔でいたが、どうにか両手で頬をぴしりと叩き、首を振ってから。


「惣流アスカ・ラングレーよ。エヴァンゲリオンパイロットであるチルドレンのリーダー」

(そこらは誰にであっても主張するんだ)


シンジは麻酔が解けた後のぼんやりとした頭でそんなことを思った。いやまあ、実際にアスカはリーダーなのだが。ぶっちゃけエヴァの操縦による戦闘ということに関しては、アスカ以上の適任というのはいないし。


「あ、碇シンジです」

「……綾波レイ」

「渚カヲルです。よろしく」


同じエントリープラグの中で詰め込まれている四人のチルドレンが、それそれぞれ名乗り、それを見計らってモニターの向こうのミサトが「はいはい、自己紹介は終わったわね」と声をかけてきた。


『それで作戦についてもう一度だけいうわよ。エヴァは地表射出後はガンバスターによって回収、後に大気圏突破、雷王星からきている怪獣軍団になるべく地球と離れたところで接触して、そこで接敵次第、問答無用で戦闘して殲滅ね』

(それ作戦っていうのかな……)


シンジは思って全員を見わたしたが、3人とも相変わらずだった。

つまり、カヲルは妖しく笑っていて、レイは無表情で、アスカは笑っていた。笑うというのは(以下略)。


「まー、よくわかんないけど、とにかく敵を全滅させればいいわけね」

『アストロイドベルトあたりがベターかしらね。あそこらなら戦いの足場があるから。エヴァはなんかATフィールド使って移動できるけど、宇宙での戦闘は考慮されてないしそれ用の訓練もしてないし。まあ、理論の上ならば木星の地表だろうがどこだろうが、別に問題なく戦えるらしいけど』

「……作戦前に指揮官がいう台詞じゃないわね」

『あ、いえることは全部ここでいっとくから。何せどう考えても電波でも十秒以上のタイムラグが起きる場所での戦闘になるから、こっちでは状況の補足が遅すぎるし、言っても邪魔になるだろうし。遺言とかあるんなら今のうちにいっといてね』

「んなもんないわよ。必要ないもの」

「あー……僕も別に」

「わたしも」

「ま、ぼくもね」


とかそんな感じで一応のやりとりは終わり、地表に射出されるエヴァ。

ガンバスターが回収にくると、エヴァはだいたい五分の一ほどの大きさだった。抱え込むと人形のようなサイズになってしまう。というか、丸っこいロボットがエヴァを人形のようにしているというありえないヴィジュアルに、思わず失笑がオペレーター席から洩れた。


『それでは今から飛ぶわ。――よくって?』

「どんと来いよ」

『ガンバスター、飛びます!』


ノリコの元気な叫び声とともに、バーニヤを噴出させて飛び立つガンバスター。


「全ては子どもたちの手にゆだねられる、か」

「たち、ではない」


ゲンドウは司令席から厳しい眼差しでモニターの向こうで飛んでいるガンバスターを凝視している。眠たいから気合を入れた顔をしているというのではない。真実、彼は真剣であったのだ。

あ、ちなみにどういう気分の変化か、今日はサングラスを外していた。

ほとんどはじめて司令の素顔を見ることになった職員たちからは「あ、けっこー温厚そうな顔だな」とか「う、ちょっといい男かも」とかわりかし評判はよかった。というか、普段のサングラスの顔が怖すぎなのでそのギャップであろう。客観的に見てもそんなに温厚でもいい男かというのも、ちと疑問ではある。

そのゲンドウが、ひどく冷たい口調で言った。


「レイだ。あれが望みを捨てないのなら――ここで殲滅しても終わらない。同じことが繰り返して起こるはずだ」

「……気持ちは解らんでもないがな。人は苦痛には逆らえても、喜びを捨てることなどは難しい」


そのやりとりにはどういう意味があるのか、司令席を見上げていたリツコは、主任オペレーターのマヤに顔を向けずに話しかけた。


「ねえ、レイのことをどう思う?」

「あ、レイですか?」


突然聞かれたので、目を白黒させてしまう。だがしかし、すぐに顔を赤くして。


「体にはしみ一つないですね……胸はアスカに比べると小ぶりですけど、形はどっちかというとレイの方が好みです。あ、アスカの方だって悪くないですよ。胸の筋肉が発達しているから、こう上向きになってて。ヘアとかも自分で処理しているのか薄いのが可愛らしいなあって。……あ、私はなんていっても先輩が一番ですから!」

「…………ああ、そう」


そういえばチルドレンの着替えは眠っている間にオペレーターたちに任せたのだった

と、なんとなく思い出して顔を抑える。

それでマヤはというと、何か重大なことを思い出したのか、急に真剣な顔をした。


「あのそれでレイのことですけど」

「? 何か思うところがあるの?」


顔をあげて自分の恋人であるところのMAGIの主任オペレーターを見た。


「あの、彼女のヘアがないのは碇ユイ博士からしてそうだったんでしょうか?」

「知らないわよそんなこと!」


叫んだ。


「……どうだったんだ、碇?」

「問題ない」


ちなみに、そこらの音声はミサトがとっとと手動で切断していたので、ガンバスターにもエヴァにも聞こえていなかった。





☆ ☆ ☆





「んふふふふ……いい感じにぶっとんでるじゃん」


ギターを背負った渡り鳥、もとい光速ベスパ女ことハルハラ・ハル子、本名ハルハ・ラハルは、ベスパに乗ってギター型兵器を担ぎつつ、湖畔から飛び立ったガンバスターを見上げていた。


「それで、どうするんだ?」


彼女の背後から背広姿の眉毛のでかい体格のがっしりとした男が声をかけた。眉毛はしかし描いたものなのか不自然なズレがある。

彼の名はアマラオ。湖畔に現れたアイロン形の建造物であるメディカルメカニカに所属する人物である。


「地元のファンとしちゃあ、有終の美はあんたに飾って欲しいがね」

「ここはわたしらの地元≠カゃないっしょ」


そうだったな、と背広の懐からタバコを取り出そうと手を突っ込みもぞもぞとさせる。

なかなかでてこないのか見つからないのか、何かてこずっている風に「あれ?」とか言ってポケットを服の上から叩いていたりするが、ハルハ・ラハルはアマラオの方など見ずに大気に残る噴出の軌跡を見つめていた。

やがて。


「さーて、フィナーレの準備はすっかな」

「サヨナラホームランといきたいね」


ちっちっちっ、と初めて彼女はアマラオへと顔を向けた。


「代打逆転≠ェ抜けてるぜ。あと満塁」

「代打逆転サヨナラ満塁ホームラン――」


そんなことをぼやいたのと同時に、ベスパのエンジンがかかり、あっという間に地平成のかなたへとぶっとんでいった。 





☆ ☆ ☆





「って、ガンバスターって早くない? あっと言う間にバン・アレン帯突破しちゃってるし」


なんか反則よねーとアスカはぼやくように呟き、シンジは「バン・アレン帯?」と微かに首を傾げたが、そのことを聞こうとはしなかった。まあ、ふつーに高校生とかは日常生きていく上で知らない知識ではある。それを尋ねなかったのは、アスカがそれはもうバカにしてくれた上に丁寧に教えてくださるからであるが。


「エヴァの機能そのものには変調は見られない……宇宙用改造も上手くいっているみたいね……」


レイは各システムをチェックしながらそう報告する。


「ま、ATフィールドが上手く作用している間は、エヴァを破壊することなんてことは誰にもできない。黙示録の獣の如くして、それこそ神の手をもってしなくては無理だろうね」


まあ、似たようなものというのなら、目の前にもいるけど……とカヲルはアスカと――

レイを見た。

イスラエル(神の勝者)がベヒモス(神以外に打ち倒し難き怪物)と呼び改められるのは、果たして格上げなのか格下げなのか。


『今から私たちが対決する相手との戦いは、それこそ黙示録のようなものになるわ』


モニターの向こうで、しかし優しい笑顔でカズミはいう。チルドレンたちの様子を頼もしいとみているのかほほえましいと思っているのかは、側にいるノリコにも解らなかったが、なんの心配もしていないということは伝わってきた。ならば私も惑わずに戦える、と思った。お姉さまが信じている子なら私も信じられる。お姉さまが信じている私も、信じられる。


『しかし……この戦いが終わったら、すぐお別れになることを考えたら、本当に残念だわ』

「んー、そこらがよく飲み込めないんだけどさ」


アスカは唇を尖らせる。


「宇宙怪獣軍団を倒すのと、世界を元に戻すのってどうつながんの?」

『?――それは』


『お姉さま!』


「アスカ! 重力波のスピードが上がった! 距離が一気に詰まった!」


『接敵まで五百秒をきりました!』

『あー、今のとこ何秒遅れかな? んじゃま、こちらからは後は応援しかできないから』


ミサトが、モニター越しで笑った。


『必ず、帰りなさい』


「言われなくても!」


「敵、目視で確認――」


『敵が七分で宇宙が三分!』


「はは…………リリン、この世界は冗談でできているみたいだね」


それは――

その、怪獣軍団の姿は。


『何、これは?』


「嘘……」


アスカのこんな呆然として弱弱しい声を、ほとんど初めてシンジは耳にしたと思った。





「エヴァウンゲリオン」





それは、幾万もの白い量産機の姿であった。



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first update: 20070515
last update: 20070515

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