Neon Genesis Evangelion L

第壱話 使徒、襲来
EPISODE: 1 “If I hadn't come here.”

#1

「あつ……」

おれたちはクーラーの聞いたリニア・ロマンスカーの中から、一転気温三十度、ピーカンの空の第3新東京駅のホームに放り出された。神奈川……正確には首都圏特別行政区域、というややこしい場所。盆地である第3新東京市は暑かった。

その在りし日の姿は写真でしか知らない、テロで吹き飛ばされた旧東京は、太平洋側の沿岸にあったという。そして第2新東京市は内陸の長野県。ならば第3新東京は日本海に面した新潟に作るべきじゃないか。何でまた太平洋側に帰ってくるんだ。総理大臣は何を考えているのだ、とか真剣に思いながら、額の汗をぬぐった。


「そうだね……さっきまでキンキンに冷えた車内にいたから、ちょっとキツイや……」

僕たちはロマンスカーを降り、よく晴れた空の下、第3新東京駅のホームに降りたった。

もっと正確に言えば、飛び降りた、と言うほうが正しい。僕らはのほほんとしているあまり、危うく乗り換え駅の第3を越えて茅ヶ崎やそこらまで乗り過ごしてしまうところを、危うく飛び降りたのだった。そこに来てこの暑さ、少しうんざりしてしまった。これなら第2の方がまだ少しはマシと言うものだ。でもこの暑さで雨が降るとかなり悲しくなってしまうので、晴れただけでも良かったと言うべきなのかもしれない。そんなこと、今になってはもうわからない。

でも。やっぱり来なければ良かったかな、と心の片隅で少し嘆息した。

僕たちは階段に向けて歩き出した。じりじりと体温が上って行き、汗が噴出すのが分かる。隣にいる僕と同じ顔をした彼――兄さんがうんざりとした顔で言った。僕より二割増しの汗の量。話が止まってしまったのは、声を出せなかったということらしい。さすがは僕の兄弟、けっこう軟弱だ。


隣で汗ばむ白シャツに言葉を返す。

「確かに。この温度差、かなりくる。あっついなぁ」

「そんな薄着で乗ったからだよ。クーラー病になっちゃったんじゃない?」

そう言われて、Tシャツ一枚に制服のズボンという薄着で電車に乗り込んだことを少し後悔した。やはりもう一枚くらいは着ておけばよかったかもしれない。だが、それにしたって、隣を見てもおれと違うのはTシャツの上に羽織った夏用カッターシャツくらいだ。あんな薄物一枚の差でこれだけ差が出来るものなのだろうか。

とは言っても、お互い汗だくなのは変わりないんだけど。

「大丈夫だよ、そこまでやわじゃない……と、思う。そっちが元気すぎるんじゃないの?」

「……僕は電車の中で寝てなかったからだよ。あの寒い中で寝汗掻いてれば身体も冷えるよ。しっかりしてよ、もう」

少々分が悪い。痛いところを突いてくる。何とか話を変えられないものか……と考えているとき、頭越しに電光掲示板の表示が見えた。おれは分の悪い雑談をさえぎって、ちょうど自分から見てまっすぐ向こう、ホーム中ほどにある電光掲示板を指差した。

「あ、そういえばさ、例の待ち合わせ場所、ちょっと、無理かもしれない」


? これは……話を逸らす気か? いつもこんな風にして分の悪い話題になると話を逸らす。それも処世術かもしれないけど、あまり何度もするとただのダメな人だ。僕はいつものジト眼を向ける。

「何? すぐ話そらすんだからさあ」


少しムッとした調子で見られる。これ、本人は「ジト眼を向けている」つもりらしいけれど、元来の優しい顔立ちのせいで、あまり迫力はない。

おれも、いつもならば面倒くさいので「ごめんごめん」と言うところ。

けれど掲示板の表示が表示なので、そのまま切り返す。

「じゃなくてさ……ほら、向こう見てみなよ」


そう言って僕の頭は両手で挟まれ、僕の意思に反して後ろに向いた。痛。

慌てて首が「エクソシスト(セカンドインパクト後しばらく映画が作られなかったせいもあって、セカンドインパクト前の映画は結構人気があるのだ)」状態にならないように、身体を後ろに向けて、ちょうど自分の真後ろ、天井からぶら下がっている電光掲示板を見る。

「え? どうした……の……あ」

表示が出ていた。黒いバックに赤い文字が光っている。

非常事態宣言発令中、指定のシェルターへ速やかに避難してください。

非常事態? セカンドインパクトとその後の混乱を体験し生きてきた僕たちにとっては、それは多少は見覚えもある表示だった(もっとも、僕たちが体験したのなんかは直に食らった人々にとってはなんともないようなものだったけれど)。

でも、そうは言ったって、今さら戦争と言われてもちょっとぴんと来ない。

というか、それよりも。


「非常事態宣言か。電車は……ああ、止まってる。うーん……とりあえず、動いたほうがいいよね?」

と横から当然のことの確認。顔を見てみると、いまいち釈然としない、という表情だった。確かに、世界がどうであるかは別として、国連本部のあるこの日本に関してはもう何年もそんなニュースは聞かないし、ここは日本でも治安のいいほうだ。だが、とりあえず非常事態と言うからには、それなりのことが起きているに違いない。おれは相変わらずポケっとした顔をしている目の前の弟に答えた。

「ああ、そうしよう。あの例の……結局何になったんだっけ?」

「『水商売のおねえさん』?」

え? ……そんなことを言ったような記憶もないではない。言い過ぎた。やや反省。

「そんな酷かった? まあいいか。そのひと、ええっと、葛城さんか、にとりあえず電話して」

「つかまらなかったら?」


訊き返したその時、館内に放送が鳴り響いた。

十二時三十分に東海地方を中心とした関東中部全域に非常事態宣言が発令、住民の皆様は速やかに指定のシェルターへ避難してください。繰り返しお伝えします、十二時三十分に……。 デパートで流れているみたいな無機質な放送が頭の上を通り過ぎた。やれやれといった表情で兄さんが答えた。

「放送係さんの仰せの通りに、ね?」

「そうだね。よし」

ため息交じりの声の次に来る言葉は、わかっていた。

「行こう」

その言葉を唱和してホームの階段を掛け降り、おれたちは第3新東京駅出口に走った。

#2

走りながら、ここに呼ばれたときのことを考えていた。

きっかけはつい先日届いた手紙だった。

何の装飾もない事務用の封筒に、これまた事務用のそっけない便箋。その便箋に、ただ「来い」「碇ゲンドウ」とだけ書かれてあった。どうやら手書きだった。確かに、この程度ならわざわざ端末を立ち上げるよりは、どこにでもあるマジックで走り書きをするほうが早いに違いない。

時候の挨拶などもなく、用件と差出人のみしか書いていない、簡潔すぎる手紙。

よっぽど急いでいたのか、それともよっぽど書くことがなかったのか、それともその両方か。理由は推して知るしかないが、とにかく何から何までよく分からない手紙だった。

横から「他に何か無い?」という声がかかり、封筒を振る音が聞こえた。

確かに、人をこれだけで呼びつけるというのはいくらなんでもおかしな話だった。例え捨てた子供への手紙だって、いや、捨てた子供への手紙だからこそ心を込めて書くべきなのではないのか。

ドラマで見る会社の辞令か何かみたいに無機質な手紙を見ながらそうこう考えているうち、声の主が何かを差し出した。それに気がついて顔を上げると、そういえばさっきから一言も話していないその顔が見えた。なんともいえない表情をしていた。笑っているような、泣いているような、呆れているような、いわく区別のつきがたい表情。しかし、まさか差し出された写真を見て、自分も全く同じ顔をする羽目になろうとは思わなかった。

その写真にあったのは女の人の姿。車の前で撮ったスナップだった。ポーズは何だかスポーツ新聞の広告がたくさんある部分に載っているお姉さんか、雑誌のピンナップみたいな少しやらしいもので、下はジーンズの短パン、上は水着。歳は多分二十代である。そう思いたい。若作りの三十代かも知れないが、三十代でこれをやられるときつい。何しろ写真には、あられもない恰好に加えて、キスマークまでくっ付いていた。

その女の人の顔はそこそこ、いや、かなりの美人で、胸はかなり大きそうだった。写った胸の谷間に向けて矢印が引っ張ってあり「ここに注目!」と、写真に写った悪戯っぽい顔とは対照的に、男っぽく可愛げの無い文字で書かれてあった。少し違和感がある。

けれど、そのことは次々と浮かんでくる疑問の中では些細なものでしかなかった。

かなりの期間会っていない父親(仮)から突然届いた意味不明の手紙、それだけでも疑問でいっぱいなのに、この写真は、状況を説明するどころかますます混乱させ、結局、この二つのなぞかけのせいで小一時間ほど兄弟二人、顔を突き合わせ悩む羽目になった。

議題は、なぜ父親がいまさら手紙をよこしたのか、この女の人は誰か、呼びつけておいて理由を書かないなんてこの親父はアホなのか、以上三点。

成績は上の中と言うところである優等生未満の二人で少し考えて出した、もっとも論理的に思えないでもない説明は以下の二説。


1.このなんか痛い女の人は生き別れた歳の離れた姉で、父親はいまさら家庭に目覚め家族を集めることにした。

2.このやけに薄着の女の人は父親の歳の離れた恋人で、父親は歳の離れた新しい奥さんを紹介するため捨てた息子たちを呼びつけることにした。


1なら最悪、2でも救いは無さそうだった。

でもどっちにしろ、ここで手紙と写真とにらめっこしている「捨てられた息子たち」二人には特に意味は無いのかもしれない。

ちなみに、議題の三点目については話あう間もなく合意に至った。すなわち、両方とも頭のネジが何本か外れている。これには確信があった。あの父親の娘、あの父親の女、どちらにしろ、普通の神経をしているとはとても思えない――自分たちがその父親の血を分けた息子だということを半ば頭から追い出した上で、捨てられ息子二人はそううそぶいたのだった。

申し訳ないことに、ただの予想だったはずのものがこの時点で半ば決定事項になっていた。


そして、暫くの話し合いの後。


結局、僕らは第3新東京市に行くことにした。横にいる兄さんは少し反対したけれど、僕の泣きそうな顔を見て諦めてくれたようだった。

いまさら父さんに未練があるというわけではない、と思う。いや、多少はあると思うけれど、それは彼だって同じはずだ。

僕が気になったのは、それよりも、なぜ今さら呼んだかという、その理由についてだった。

知らない姉さんのためであるにしろ、義理の母親の紹介のためであるにしろ、僕らを呼ぶということは、僕らが必要だと考えたということである。

僕は弱いのかも知れない。でも、やはり僕は、必要とされているという事実を無視することが出来なかった。なぜ捨てたはずの僕たちを呼んだか知りたい、なぜ僕たちを捨てたか知りたい。そう思った。それが分かれば、もしかしたら、ずっと動けないでいるこの状態を、何とかできるかも知れない。周りに合わせ続けた僕も、周りに反し続けた兄さんも、もしかしたら案外簡単に殻を破ることが出来て救われるのかもしれない。

だから、僕は。僕は。そこまで口にして、その後は言葉にならなかった。


最終的に、おれたちは第3新東京市に行くことになった。横にいる泣き顔がそう主張したのだ。いや、あれは主張というよりは、無言の祈りみたいなものかもしれない。そんな泣きそうに必死な顔を見ると、嫌だとは言えなくなってしまったのだ。

最後に会ってから何年経ったかもよく覚えていない、いまさら顔も思い出しにくくなっている親父に未練があるというわけではない、と思う。多少はあるかもしれないが、たぶんそれほどではない。

早口で色々な理由を話して聞かされたが、そんな理由はどうでもよくて、結局は親に逆らうことが出来なかっただけなのだ、と思う。呼ばれた、だから行く。確かにシンプルだった。逃げちゃダメだ、と繰り返す目の前の自分と同じ顔。彼にとっては、逃げることができない枷なのだろう。それに、最後に、搾り出すように語った言葉はおれにとっても魅力的だった。「なぜ僕たちを呼んだか知りたい、なぜ僕たちを捨てたか知りたい。僕も、兄さんも、もしかしたら、案外簡単に殻を破ることが出来て救われるのかもしれない。だから、僕は」その後は声になってなかったが、その言葉は「ぜったい行くものか」と思っていたおれをぐらぐらさせた。

おれたちはここから動けない。でも、もしかしたら動き出せるようになるかもしれない。ならば。

「よし、行こう、第3」

とおれは言って、机の上の封筒と手紙を、目の前にいる泣き顔に渡した。おれの手を離れた封筒と手紙は、涙に少し濡れた手でくしゃくしゃと丸められた後、アーチを描いてゴミ箱に吸い込まれた。まったくこの男は、その才能をバスケにでも生かせばいいのに。

葛城ミサト、と名乗る女性、後で話を聞いて分かったがあの良く分からない写真の女らしい人物、から電話がかかってきたのはゴミ箱に元封筒と元手紙、今は紙くずが吸い込まれた、その瞬間だった。監視カメラでもついてるみたいだね、と、少し鼻をすすりながら、泣き終わった後の抑揚の無い声でおれの弟、碇シンジはそう言って、受話器を取った。

「はい、碇です。どちらさまですか?」

#3

僕たちは駅を出て公衆電話に向かった。セカンドインパクトやらなにやらで、それまで減っていた公衆電話はまたそのシェアを取り戻している。

僕が受話器を上げると……何の音も、しない。電話は既に止まっていた。それもそうか。何しろ緊急事態だ、電話が止まっていたっておかしくはない。そういえばさっきの改札も何か変だった。……そうだ、駅員がいなかったのだ。一人も。

よくよく見てみれば、他の乗客もいなかった。僕たちが話している間にさっさと避難を終えたようだった。緊急事態にのんびりと話をしている危機感の無い人間には構っていられなかったらしい。他人は他人、僕は僕、ゴーイング・マイ・ウェイ、それはセカンドインパクトを経て人類が得た教えの一つなのかもしれない。もっとも、この状況ではたいていの人はさっさと避難するだろうけれど。

「仕方ないなあ、どうする? 約束の駅まで歩く?」

僕はそう提案してみる。だが、兄さんは少し首をひねった後、言った。

「いや、シェルターに行こう」

僕は反論した。

「今さらシェルターなんて、戦争じゃないでしょ?」


シンジが珍しく食い下がった。それもそうか、せっかく第3まで来て、会えませんでした帰ります、ではお話にならない。それに、いまどき非常事態なんて、訓練か何かじゃないのか、と。そうも思える。気持ちは分かる。だが、しかし。

「分かんないよ、そんなこと」

そうだ、世界がこれからどうなるかなんて、今どうなっているかなんて、誰にも分からない。少なくともおれたちには知るよしもない。おれたちは世界の端のほうにいるのだ。世界の中心は遥か向こう――少なくともこの時点では。

今は?

妙な思考にとらわれた俺をよそに、シンジは納得したようだった。

「……そうだね、そうしよう」

沈黙を破って、ぼそっとそう言った。まったく世界がこんなに殺伐としていてもまだ人類が生き残っていられるのは、こんなふうに素直な人間がいるおかげだろうと思う。いや、みんな、か。みんな、お互いはバラバラでも放送にはしっかりと従うのだ。これはセカンド・インパクトを生き抜いた人々の特徴だった。旧世紀みたいに、政府のやることに、国連のやることに反対するものなどいない。そうしなければ生きてはいけなかったのだろう。

まるでどこかで見た、羊の群れみたいだ、と思った。互いに反発し、でも命令には従う従順な羊さん。国連の人はさながら羊飼いだ。でも、それも一つの教訓かもしれない。長いものには巻かれろ、国連様には逆らうな。そうすれば、世は全てこともなし。当時は、色々と酷かったらしいから。

そんなことを考えていると、わが弟、キングオブ羊さんがこちらを振り向いて、叫んだ。気付くといつの間にかシンジはおれの数メートル前、階段を下ったところにたたずんでいた。涼やかな顔を(自分も同じ顔をしているのであまりほめても意味が無いのだが)怪訝そうにしている。


「何、ほうけてるの? ほら、こっちだよ、シェルター」

僕はそう言って、後ろでぼけっとしている兄さんを呼んだ。おおかた「来るんじゃなかった」とでも思っているのだろう。正直それはもっともなことだったので、少し申し訳ない。こんなことになると知っていたら、僕だって来ようとは言わなかった。暑いし、電話は通じない、葛城さんと会うのも、悪ければ明日になるだろう。最悪だ。

だけど、それだってこれから起こることに比べれば、たいしたことではなかったのだ。

僕は、僕らは。

これから後に、何度「来なければ良かった」と思っただろう?

無情にも舞台の幕は上がる。BGMは「平和」から「戦争」へ、セットは「日常」から「非日常」へと入れ替わっていく。本当は非常事態宣言のところで、いや、もっと前、あの手紙が届いた時点から、僕らの知らぬうちに背景は入れ替わり始めていたのかもしれない。

#4

――遠くから音が聞こえた。鋭い風を切る音、飛行機? 違う、これは――戦闘機の音だ。そして、もうひとつ音が重なった。耳をふさがなければならないほどの爆音。これは――

「……っ巡航ミサイル!?」

空を見上げたとき。

ミサイルと戦闘機が頭の上を激しい音を立てて通りすぎていった。なすすべもない二人を襲う衝撃波。そして、目の前にいる自分と同じ顔の向こう、町外れのビルの谷間にいつの間にか現われていた「何か」に激突した。

ビルの谷間に見えたもの、それは、人のように見えた。大きな、黒い人影、そして、その人影から逃げ惑う戦闘機。戦闘機より大きい人?

だが、それが見えたのも一瞬のこと、すぐに轟音と光に包まれて何も見えなくなった。

その荒々しい音こそが、日常の終わりと、非日常の始まりを告げるファンファーレだった。

#5

吹き飛ばされて次に意識が戻ったのは、閃光が収まった後だった。どうやら意識が飛んでいたらしい。僕は横にいる兄さんを揺り起こす。良かった。僕も兄さんも怪我は無かった。兄さんのTシャツに影が落ちていた。どうやらここは日陰のようだ。

日陰? 僕らは駅前のロータリーにいたはずなのに、いつの間に日陰に入ってしまったのだろう?

僕が回らない頭で考えをめぐらせていると、横から声をかけられた。女の人の声。

「良かった、意識が戻ったのね……大丈夫? 碇、シンジ君? それとも、そっちの彼が碇シンジ君なのかしら?」

振り返るとそこに、青い車に背もたれて、僕を見る女の人の姿があった。しかし、その質問に答えたのは、意識が戻り、僕の手を離れた兄さんのほうだった。

「こっちがシンジです。それで、ボクもシンジです。ええと、あなたが、葛城、ミサトさんですか?」

ダメだ、兄さん。そんな説明で解れという方が無茶だ。ほら、案の上困惑している。

「そう……よ。ミサトでいいわ。えッと……ちょっーちお姉さん事情がよく分からないんだけどー……自己紹介はとりあえずいいわ、とにかく乗って頂戴、急いで!」

おれも、分からないだろうなぁとは思っていたが、思ったとおり、わけが分からないと言った表情でその葛城さんは車を指し、場に似合わず軽い調子でそう言った。処世術かもしれない。でも、素直に分からないことを分からないという姿勢は嫌いではない。もっとも、こんなややこしい話を意識が戻ったばかりの頭で説明しようと言う気にはならなかった。

おれが彼女に対してそんな風に印象をまとめているうちに、彼女はやっぱり理解を放棄したらしい、反対側の運転席へと乗りこんでいた。青いスポーツカー、左ハンドル……外車? まあ、そんなこと今はどうでもいい。考えるのを止めると、おれは手を借りてその青い車に乗り込んだ。

さっきは見えなかった左側を覗き込んで、さっきの爆発からおれたちを守ってくれたのはこの車だと気付く。左側面がぼろぼろになっていた。高そうな車が台無しだ。

おれたちが車に乗り込むか乗り込まないかの内に車は発進した。

「舌、噛まないでね!」

その言葉に答える暇が無い急スピードだった。おれはフラフラしていた頭を少しぶつけ、横にいるシンジは顔が青褪めている。

そして、この車で唯一平気な顔をしている葛城さんは、こっちは必死な顔をしてハンドルを操作しながら、言った。

「ごめんね、遅くなって」

「いえ、大丈夫で……す」

よく考えると大丈夫ではないのだが。まあ、あんなところを歩いていたおれたちもおれたちなので、それはまあいいだろう。

「そっか、ありがと」

葛城さんはあまり気にしてないみたいだった、どういう神経をしているのだ、このひとは。

車の中は暫く無言だった。攻撃の音が次第に遠ざかっていく。葛城さんは、何やらぶつぶつ呟いている。エヌツーがどうとか、セッコウがどうとか、なんたらカドウ率がどうとか。よく分からない。エヌツーと言うのは、たぶん国連軍のN2兵器のことなのだろうから、このひとは軍隊の関係者なのだろうか。少なくともおれたちが口を挟めるような話題ではない。

そのうち、シンジが、こう切り出した。何を言いたいのかはわかっていた。それはおれたちが、とりあえず聞こうと決めていたことだ。


「あの」

「何? ああ、あれは……」

僕が切り出した途端、葛城さんは喋りだした。

ダメだ、こういう人は苦手だ。結局話がさえぎられてしまう。

葛城さんは僕らの前に現れたあの大きな人みたいなものについて話したいらしかった。そうだ、よく考えたらそれも確かに重要ではある。だけど、僕らにはもっと大事なことがある。葛城さんが話し始めると、それをさえぎって兄さんが尋ねた。よろしく、兄さん。

兄さんは早口で言った。

「葛城さんは、ボクらの姉さんですか? それとも親父の新しい奥さんですか?」

いや、その訊き方はおかしいよ。

案の定。兄さんがそう訊いた瞬間、ゴッ、と大きな音がして車が止まった。僕はこういう車のことは良く分からないけど、どうやらマニュアル車みたいだから、ブレーキを踏んでエンストというところだろう。身体を打って酷く痛い。前を見ると、葛城さんは頭をフロントガラスにぶつけていた。

「な、なーに言ってんのよー、なワケ無いじゃない! 誰が……んむ」

そう言って葛城さんは口をつぐんだ。たぶん、それはこう続くのだろう。

「……誰が、あんなヤツと?」

思わず口に出して言う。バツが悪そうな葛城さんの顔が、少し赤くなる。まあ、分からないでもない。そう思うということは、恐らくそれなりに普通の神経をしているのだろう。少なくとも、僕が女なら、自分の子供を顔も忘れられるほどほったらかしにしている男など、恋人としても娘としても避ける。

「えーと、いや、あー……ナイショね、内緒」

また緊張感の無い台詞が来た。これが彼女の地なのか、それとも僕らを安心させるためのキャラなのか。それはまだよく分からない。人間は外から見えるところだけでは量れない。僕はとりあえず黙っておいた。


しばし、車内を沈黙が支配して――

「いや、いいですよ。別に、分かってますから、それは」

状況を打開するためにフォローを入れた。このままだと二人ともひとつも話をしそうにない。個人的にはうるさくなくていいかもしれない、と思うが、隣の方はそうはいかない。そういう暗いことを言ってしまうくせに、結局後で落ち込んだりするのが始末に悪かった。

それにしても、まったくシンジはこういうところでデリカシーがない。とはいっても、おれだって別のところでシンジにデリカシーがないと突っ込まれるので、結局は似たようなものなのだろう。

葛城さんが答える。

「ごめんねー、まあ、嫌いってわけじゃないんだけどねー。んー、でもま、君たちのお姉さんなら、なっちゃってもいっかなー、なんてね。はははっ」

そう言って軽く笑う。結構豪胆な人だ。よく考えると、この地域は戦闘中、笑っていられる状況ではないはずだ。やはりこの人は軍の関係者なのだろうか。そうでなければ、この状況で軽口など叩けない。

おれやシンジが結構落ち着いているように見えるのは、その実、頭がフラフラしてそういうところに気が回らないというだけだ。ここが戦闘地帯だということも、今の話で気付いた。

だがこの人は違う。この戦闘地域をスポーツカーで疾走しつつ、軽口を叩いて、笑っている。

よく考えるともの凄い。というか、なんというか、怖い。

おれはとにかく状況を把握することにした。横にいるシンジも何か考えたような表情をしていた。恐らく、似たようなことを考えているのだろう。

「そうだ、アレ、あの大きいのはなんなんですか?」

とりあえず言いたがっていたことを訊いてみる。このひとが軍隊の関係者かどうかも、これで分かるだろう。葛城さんは少しまじめな顔になった。……知っているのか。結構有名なものなのだろうか、アレは。国連の新型兵器か何かだろうか。

「アレはね。『使徒』よ」

シト、そうか、アレはシトなのか……何ですか、それ?

#6

「……だからして、使徒ってのは、一種の巨大生物兵器なわけね。あ、お父さんの関係者だから話したけれど、これ、オフレコだから、よろしく」

僕たちは、街の少し中心部から離れたビルの中、エレベータに乗って、車ごと地下へと移動していた。ここに来るまで、爆発(葛城さんによれば、第3新東京市に入る前に叩こうという国連軍の作戦らしい。そして、彼女によると、あの「使徒」とか言うのには効かないらしい、それなら何故そんなことを?)で車ごと吹っ飛んだり、それを僕と兄さんと葛城さんの三人で、やっとのことでひっくり返したり(全く、そんな暇があるのなら乗り捨ててある車でも使って逃げればよさそうなものだけど)もろもろあったが、ようやく目的のシェルターに到着したようである。とは言っても、何か様子がおかしい。車ごと入れるシェルターなんてものは普通、無いだろう。それに、今までに、随分深くまで潜っているような気がする。

僕と兄さんがそのことと、さっき爆発に遭ってうやむやになってしまった「使徒」のことを訊くと、葛城さんはパンフレットのようなものを取り出して、簡単にレクチャーしてくれた。

そのレクチャーに拠れば。僕らが向かっているのは、国連の秘密組織の、特務機関ネルフというところの地下基地で、父さんはそこの司令をしている、という。葛城さんもそこに所属していて、軍人さんだ、という。例の「使徒」っていうアレ――葛城さんによれば、予想されていた巨大生物兵器であるあのバケモノの襲来に対抗するために設立された組織だ、という。へえ、本当に「人類を守る立派な仕事」をやっていたんだ、あの人。少し感心してしまう。

事実かどうかはもちろん置いておいて。

隣を見ると、兄さんが「信じられない」と言った表情をしている。僕も同じような顔をしているだろうか?

一人ならともかく、二人でいるとこういう情報には冷静に対処できる。でっかいバケモノに、地球防衛軍、そして僕らの父さんは、その秘密組織の司令。確かに、素面で話したら頭がおかしくなったと思われそうな話だ。というか、実際僕はもうおかしくなりそうだった。しかも、敵の名前が使徒、って。使徒といえば、キリストの弟子だから……神様の使い、ですか。ここまで揃うと、何かの宗教団体じゃないかと疑ってしまう。もしかすると、これは大掛かりな芝居で、この葛城さんは父さんにマインド・コントロールでも受けているのではないか。そう思えてくる。最近、変な宗教のニュースを見たし、そう思ったほうが精神衛生上いい。

エレベータが止まった。葛城さんはネルフ……自称国連組織に何か連絡している。

ふと、隣を見ると、兄さんもこっちを見た。眼で会話する。こういう時に双子は便利だ。一緒に暮してきたせいもあるけれど。何となく、言いたいことが分かってもらえたりする。


視線を感じて隣を見ると、シンジがこっちを見ていた。顔に貼り付けた引きつった笑いが、言いたいことを雄弁に表していた。

幸い葛城さんは「特務機関ネルフ」と電話で連絡を取っていて、こっちを見ていない。何か言い争っているようだ。予備がどうとか、サードがどうとか。隣にいるシンジは特に気にしていないらしいが、おれには結構気になる。しかし、まあ、今は、その内容は考えなくて良いだろう。とにかく今は、状況を把握しないと何もできない。

というわけで、ちらちら前を見ながら、シンジとおれは眼と軽いジェスチャーで会話を始めた。もう長い付き合いである、言葉を交わさなくても大体は分かる。

『大丈夫なの? あのひと』

おれは首を少し前に動かして、葛城さんを指し、シンジの目を見た。

『さあ?』

シンジが首を少しひねった。相変わらず引きつった笑い顔のままだ。

『でも』

だがシンジは、引きつった笑い顔から、少し心配げな顔になると、おれの頭を見た。頭を触ってみる。少し血が出ていた。先の爆発やあれこれの際にどこかでぶつけて切れたらしい。傷は気がついてから急にその存在を主張しだした。割と深い傷のようだ。

『そうだな……』

おれは眉をしかめてみせた。

確かに芝居であれだけの爆発をやらかすとも考えにくい。非常事態宣言まで出させるなんて、それじゃ本物のテロ組織だ。

そうこう考えるうちに、葛城さんは電話をとりあえず終えたようだ。

その時、シンジがおれの手に、指でこう書いた。

『お、と、な、し、く、し、よ』

それが正解だった。冴えたやり方とは言わないが、次善の策だ。おれたちに与えられた選択肢はそれほど多くない。

「ネルフ」が地球防衛軍であれ、狂信的なテロリストであれ、今のおれたちは籠の鳥。

ならばおれたちはとりあえずは籠の鳥らしく、おとなしくしている他はない。

#7

葛城さんが連絡を終え、再びエレベータが地の底へと潜り始めて数分、連絡も終わり沈黙が続く車内で、葛城さんが兄さんに声をかけた。

「ねえ」

「なんですか? 葛城さん」

「ミサトでいいわよ、それより……訊かないのね」

「何をですか?」

「その、何で呼んだの、とか」

「そんなの、葛城さん、んむ、ミサトさんに訊いても仕方ないでしょう? ねえ?」

「そうですよ。何のために父が僕たちを呼んだか、なんて、本人に訊かないと。あ、それより、わざわざ迎えに来てくださってありがとうございました。ご迷惑をおかけします」

シンジは深々と頭を下げる。おれも同じく頭を下げる。

「ホントに、どうもすいません、父のせいで」

おれたちのこの言葉を聞くと、ミサトさんは、少し悲しげな表情になった。何故だろう? 何か悪いことを言ったのだろうか? おれたちは?

おれたちが怪訝な表情をしていると、悲しげな表情を一瞬で顔から追い出し、ミサトさんは答えた。

「そりゃま、そーなんだけどね……随分冷静なんだな、って思ってね。落ち着いているわね、あなたたち」


『それは違います。ミサトさん』

『それは違うよ、ミサトさん』


僕たちは心の中で(たぶん)斉唱していた。こんな状況で冷静にしていられるはずがない。この人は、気づかないのだか気づきたくないのだが知らないが、僕らの上っ面しか見ていないようだった。

僕たちは、内心、もう今にも心臓が止まるんじゃないかっていうくらいビクビクしている。この先にあるのは、よく行って、地球防衛軍の地下基地、悪く行って、狂信テロ集団の地下施設。

どっちにしても最悪だった。

僕はこの日何回目かの「来なければ良かった」を心の中で唱えた。口癖になってしまいそうだ。

それに、今、僕たちの頭の中には、もっとも最悪な答えが煌々と点灯していたのだ。

エレベータが再び動き始めて、しばらくして。突然大げさに痛がった兄さんに、僕が変な気配を感じて近づけたこの耳に入ってきた、呻くような言葉――

「……ガンダム……」

……マジ? 兄さん。


そう、それは当然予想できることだ。

突如現われた「使徒」とかいうバケモノ、いや、怪獣。

そして三十分番組のお約束のごとくちょうど呼び出されたおれたち。

地球防衛軍ネルフ。

そしておれたちの親父が司令。

ここから考えられる、もっとも馬鹿馬鹿しいけれど、まず思いつく可能性。

すなわち、マジンガーZ。

言っては悪いが、セカンドインパクトからこっち、アニメやゲームなんかは、まともなものは暫く作られなかった。かつて日本が大国として君臨していたこの産業も、その不死鳥のごとき復活はつい最近のこと。

必然的に、おれたちの知るマンガのレベルは、90年代後半の人が知っているレベルとそれほど変わらない。ガンダムだって知っている。当然、見たことは無いけれどマジンガーZも知っている。スパロボだってやったことがある。ガンダムとマジンガーの相似点。ロボットものが外さないお約束。

すなわち……開発者の子供がパイロット、そして突然の搭乗、これだ。

まさか。

まさか。

まさか。

嘘でしょ? 嘘だと言ってよバーニィ(自慢じゃないがおれはあまり友達も居ないので、OVAだって借りてきて見る)。

――頼むから!


呆然とする僕の横で兄さんは虚ろな目をしている。今にも頭を抱えそうだ。

そうだ。僕だって薄々は分かっていた。僕はそこまでゲーム好きじゃない。けれど、見たことはなくたって、いい年をした日本の男子中学生ならガンダムくらい知っている。そして、もし彼にゲームやマンガが好きな兄弟がいれば、その主人公と、ちょっとしたバックグラウンドくらいは知っている。

僕の記憶によれば、ガンダムの主人公はアムロ=レイ。父親は……ガンダムを作った人のはずだ、確か。そしてそんなことを知らなくたって、たいていロボットのパイロットは関係者と相場が決まっていることくらいはわかる。

ふと見ると兄さんは小さい声で呟いていた。

「まさかな……嘘だろ……頼むよ……ちょっと待ってよ……意味わかんないよ……」

僕もそう思いたい。でも、この状況が……どんどん深く潜っているこの状況が……どんどんこの可能性を強くしていく。どんどん他の可能性を絞め殺していく。

もうかなり潜っている。ここは曲がりなりにも次期首都の地下だ。その場所に、誰にも気づかれずこんな施設を作るのなんて土台不可能だ。そう僕のわずかに動いている理性が告げる。そして、何故かここに呼ばれた僕たち。こうなると……ダメだ、もう考えたくない。

……やっぱり、来なければ良かった。

#8

そしておれたちは例の地球防衛軍「ネルフ」の中にいた。

気分はもう最悪だった。

本音。今からでも即刻引き返したいです。あんな親父に会おうと決めたのがそもそもの間違いでした。おれもシンジもちょっとおかしかったんです。面倒くさいことが嫌いな出不精の子供が、久しぶりの父親からの手紙に柄にもなく少し浮かれただけなんです。

ほんの出来心です。

だからお願いします。ボクたちを家に帰らせてください……

そう、心の中で祈ったとき。目の前が明るくなって、おれたちは最悪の可能性が当社比5割増で確信に変わった瞬間を目撃した。目の前に突如開けた空間。

そう、「空間」。

巨大な地下空間。そこにあったのは、「本物」のジオ・フロントだった。まさか「本物」というのがあるとは思わなかったけれど、現に目の前に、狂信テロ集団などでは逆立ちして踊り狂ったって作れない超高深度地下都市がある。テレビの特集とかで「未来の都市計画」なんてタイトルをつけて番組でもやってそうな奴が目の前にあった。もう、言い訳は効かない。

ああそうか。クソ。もういいよ。認めるよミサトさん。あなたが言うとおりなんだろう。

「ここは、世界再建の要、人類の最後の砦、ネルフ本部」

そして、あなたは言わなかったけど、たぶんおれたちが乗るロボットの発進基地だ。そうだよね?

そう心の中で毒づいた。

自然の明かりを取り入れているのだろう、眼下に見える森と、その中心にあるピラミッド上の建物は陽光を受けて煌いていた。その景色は神々しい雰囲気すら感じさせる。まるでゲームに出てくるナントカ神殿の聖域だ。今にも厳かなトランペットが鳴り響きそうだ。多少わざとらしくても、こんな景色には良く合うだろう。

でも、こんなもの見たくない。最悪だ。

素晴らしい景色も、こんな書き割りの台本みたいな展開の中では、書き割りの背景みたいに見えた。

横にいるシンジは、もう泣きそうな顔になっていた。おれも泣きそうだった。

耳をすますと小さい声が聞こえた。シンジは謝っていた。

「ごめん、兄さん。ごめん……ほんとにごめん……僕のせいで……」

「行こうって言ったのは……おれだよ……ごめん、シンジ」

おれも聞こえるか聞こえないかの声で答えた。馬鹿だったのはお互いさまだと思う。

車を降りると、おれたちはさらに内部へと向かった。下まで降りてみると、この空間は思ったよりも超絶、でかい。ミサトさんが言うには、これでも八割か九割は土砂に埋まっているそうだ。と言うことは、どういうこと?

この空間は、ドーム状になっている。その端を延ばしていけば……大きな球が完成する。子供でも分かる理屈。超巨大な球状の地下空間。ゲームかアニメに出てくるくらい想像に難くない、でも実際にやるには想像を絶するオーバーっぽいテクノロジーの存在。だがおれの頭もシンジの頭も、既に一切の理解を放棄していた。

そしてネルフに到着した。未来世界の施設のような内装のネルフ本部の中を、ミサトさんと、馬鹿二人は歩いた。

歩く、歩く、歩く。どんどん歩く。

ミサトさんは内部をどんどん進んでいく。だが……どこか、おかしい。ここはさっきも通ったぞ。横を見ると、シンジも首を傾げている。おれよりも早く気付いていたようだ。このへん、シンジは聡い。その顔はやっぱりまだ泣きそうだったが、目の前で行われている見世物に、少しは気が落ち着いたようだ。


ネルフに入ると、僕たちは内部をどんどん進んで言った。とは言っても、僕たち二人はついていくだけだったけれど、まあいい、とりあえず内部に進んで行ったのだけど、何かがおかしかった。ミサトさんはさかんに首をかしげている。ここはさっきも通った。

……迷ったんだな。

どうやら兄さんも気付いたらしい、こっちを見てくる。僕は首を傾げておいた。ミサトさんの真似。少し気持ちが落ち着いてきたようだった。

前に視線を戻すと、ミサトさんは段々苛立ってきているようだった。足はどんどん速くなり、肩をどんどん怒らせていく。怖い。

僕らがその爆発を今か今かと恐れていると。

その人が僕らの後ろ、通り過ぎた廊下の角から姿を現した。

「……どこに行くつもり?」

女の人の声。ミサトさんよりは多少低く、落ち着いた声。大人の女の人、と言う感じ。

ミサトさんはビクッとして、きっかり五秒硬直した後、こちらを向いて――いや、正確には僕らの後ろ、声の主の大人の女の人のほうを向いて、言った。

「あ、リツコ……」

「遅かったわね、葛城一尉。あまり遅いものだから、迎えに来たわ」

知り合いか? 葛城一尉、いちい、というのは、軍隊の「大尉」とか、「少尉」みたいなものか。やっぱり軍人さんだ。ではこの大人の女の人は?

「ごめーん、迷っちゃったのよ、ほら、私まだここ、不慣れで……さ……申し訳ない、赤木博士」

照れ笑いから青褪めた顔へとくるくると顔色が変わっていく。面白い。恐らく、アカギ博士はかなり怒ってらっしゃるのだろう。アカギリツコ博士。博士だ、博士が出た。博士なら、やっぱりロボット――僕はまだそうではない可能性に賭けているけれど――の開発助手と言ったところなのだろうか。ダメだ、やっぱりそれしか浮かばない。

さっき僕らは本物のジオ・フロントと秘密基地を見た。こんなものを作れるなら、本物のロボットが出てきても、何となく許せる気がする。

「言い訳は聞きたくないわね、葛城一尉? 人も時間も足りないのよ。と、その子が、例の『三番目の子供達(サード・チルドレン)』ね。……あら、本当に二人。ちょっと心配したけど、安心したわ。ついにジャンキーになったってわけじゃなかったのね、ミサト」

突如目の前に投げ出される、見知らぬ言葉。

サード・チルドレン。

サード? 野球でもするのだろうか? チルドレンと言うのは分からないでもないけれど。サードは、三番目、もしくは、三人目……ひょっとして僕らにはまだ兄弟か姉妹がいるのだろうか? あと二人も?

と、会話が止まった。いい加減、わざわざ直々に迎えに来てくれた博士に失礼だ。僕はもう危機感も麻痺してしまったのか、そんなことを思って、後ろを向いた。兄さんも同時に後ろを向く。

な……!

「は、始めまして、碇シンジで……す」

「私は技術一課、E計画担当の赤木リツコです。よろしく、シンジくん」

そこにいたのは、声とは裏腹に、水着の上に白衣に金髪のパンクなネーちゃんだった。

一体全体。

何なんだ、ここは?

#9

「こっちよ、二人とも」

おれたちが面食らって黙っているのを、「話を促されている」ととらえたのか、赤木博士は自分が出てきた道の方をすっと指差し、そう言った。おれたちは促されるまま彼女の後ろを歩く。前では赤木博士とミサトさんが状況を確認していた。一応、聞き耳を立てる。

「状況は?」

「N2爆雷の近接射によって#3は取りあえずここの外に吹っ飛んだわ、でもそれだけよ。現在は自己修復中で、予想される再侵攻は三十分後」

「何てこと……あれにはN2兵器が効かなかったってこと? 威力限定弾でも、ここじゃなければ地面ごと抉り取られてるわよ?」

「全くということはないわ。N2爆雷の超接近起動のお陰で使徒は強羅防衛線外まで一旦引いたし、推定で構成物質の10%弱――つまり表層部だけど――の焼却には成功しているわ。『エヴァ』ほどではないのは仕方ないにしろ、通常兵器も捨てたものではないわね。意外と使えるわ……よっと」

エレベータの前に着いた。赤木博士がボタンを押す。小さい駆動音がうなりのように響く。

そしてまたおれたちの前には見知らぬ言葉が投げ出される。おれたちに説明が無いのは、しても仕方が無いからか、追い詰めて逃がさないためか。エバ? 秘密兵器だろうか。あの爆発よりも凄いことができる兵器……怖ろしい。

ここで頭に一抹の不安がよぎる。

「エバ」が……巨大ロボットや何かだったらどうしよう、と。戦闘機でも、人型でも、動物型ロボットでもいいけれど。あの爆弾を「通常兵器」と言い切ってしまう力を持つロボット? 制御、できるのだろうか? 普通ロボットは爆弾よりは弱いものだろう? ガンダムだって核爆弾には太刀打ちできない。南極条約はないのか。当たり前か、南極はもうない。それにしたって、ビルほどもある怪獣なんて、ウルトラマンかゴジラでもなければ対処するのは無理だ。

そうか。

おれは思い直した。

ロボットなどと考えたのがそもそもおかしかったのだ。エバと言うのは、ものすごい爆弾とか、戦闘機とかそういうものなのだろう、きっと。そうに決まっている。そうであってくれ。なんだか、予想してるのか祈ってるのかよく分からなくなってきた

「なあに言ってんのよ。あんたは科学者だから自分の作ったものが優れてりゃいいかも知んないけど、使う側の私にとっては……使える駒は、多いほどいいのよ」

「確かに。でも、やはり#3の周辺にも『フィールド』の存在を確認したわ、通常兵器では決定的な打撃を与えるのは無理ね。N2兵器が効かなかったのはそのせいでもあるのよ」

「衝撃の大部分が緩和されていると?」

「そうなるわね。N2兵器がまともにぶつかれば当然、ただじゃ済まないわよ。まともな物質で出来ているならね。もっとも、それだって怪しいものだけれど」

エレベータの扉が開き、中に乗りこむ。狭い。

またの知らない言葉……「フィールド」何の領域?

しかし二人は一向に説明しようという気が無いようだ。というか、お互いに情報を伝えること、理解することに必死で、こっちには構っていられないという感じだ。

「ちなみに、『MAGI』によればN2兵器の実行中にも自律的なものだと思われる回避動作が確認されたから、どこかのバレンタイン条約違反の国が新造兵器を作って遠隔操作しているっていう説は、破棄、ね。先の第一次戦闘でのリサーチから、パイロットがいる可能性も皆無だったわ。時間が無いから詳しい説明は省くけど、要するに、#3は、『知的なバケモノ』と言ったところよ、予想通りってこと」

「ということは、やっぱり……」

「ええ。ネルフ技術一課は当該目標を「第参使徒」と正式に判定しました。後はあなたの仕事よ? ネルフ作戦部作戦一課長、葛城一尉?」

「ええ、分かってるわ。それより、ちゃんと動くんでしょうね? 初号は。起動確立0.0000000001%、って、もっぱらのうわさだけど」

「さあ」

「さあ、って……あんた!」

「悪いけど、技術的にはこれが限界なの、ミサト。でも『0‐9システム』というのは悪い冗談よ。大丈夫よ、恐らくはね」

「どっからそんな無意味な自信が湧いてくるのよ」


お二人で盛り上がっているところ悪いのだけれど、こっちは全然理解できない。

僕と兄さんは、後ろで理解できない言葉について必死に話していた。二人が話している内容の字面だけを追いかけても、圧倒的に知識が足りないので全く分からない。

「ねえ、『エバ』って何?」

「おれに分かるわけないよ。でもさっきの爆弾より強いんでしょ? たぶん。っていうか『サード』って何?」

「そ、そんなの僕に分かるはずないよ……でも……もしかして……パイロット……とか……」

「……」

これでは埒があかない。

僕は、ちょうどエレベータを降り、そこにあったプールに用意されたボート――もう何があっても驚かないけれど――それに乗るタイミングで、二人に声をかけた。

「あの」

「何? シンジ君? ごめんなさい、時間がないのよ、今」

赤木博士が言った。ミサトさんのように力強いわけではないが、有無を言わせぬ調子。僕はつい気圧されてしまい、何も言い出せなくなった。

「いや、あの、その……」

「っ、これからどこに行くんですか!? 何なんです? ここは?」

口から出た、言葉……いや、僕の言葉ではなかった。兄さんだ。

「いや、だからね。あの……」

ミサトさんが口ごもる。やっぱり、何かある。

「誤魔化さないで下さい! おかしいでしょう!? 何時までたっても父は出てこないし、何も分かんないままでここまでつれてこられるし! 何なんですか!? 何でシェルターじゃなくてこんなところに来なきゃならないんですか?」

「来れば、わかるわ。お父さんはあそこよ」

赤木博士が、全く動じずに、赤い液体が満たされたプール――その向こうにある入り口を指した。

「あそこに……親父が……」

「父さんが……向こうに……」

「さ、いらっしゃい」

僕たちは、また間違った。

赤木博士は、確実に話を誤魔化した。本当は誤魔化したというレベルですらない。目の前にいる中学生に事情を説明するのが億劫なので、興味があるものの話題を出して当座を乗り切ろうという、見え透いた魂胆だった。

僕たちは、本当は、この二人にここでちゃんと問いただすべきだったのだ。

「何故、ここに連れて来られたのか?」

「この先に、何があるのか?」

「父さんは、僕らに何をさせるつもりなのか?」

それはこの二人にとって酷だったのかも知れないけれど、僕たちは、そうすべきだった。

結局、僕たちは二人とも、父親を求める幼い子供そのままで、ここまで来てしまったのだ。

#10

そして僕たちはついに来てしまった。

赤いプールの向こうにあるドアを開けて薄暗い部屋に入る。何も見えない。ただ反響する音から、この空間が先のプールの部屋と同じに吹き抜けの大きな空間になっていることが分かる。

照明が点いた。

「……!」

そこに、それはいた――そう、いた――僕たちの人生をがらりと変えてしまう、紫の巨人が、そこにいた。

それは、最悪の可能性。

それは、僕たちが想像した悪夢、そのままの形。

巨大ロボット。

紫色の大きな人型ロボットがそこにあった。

その額からは角が生えている。

その顔には口があった。

まさに巨大ロボットだった。工業用ロボットを1%も含まない100%の純正巨大人型ロボットだった。さぞかしおいしいだろうと思う。絵的に。

巨大ロボットには口か角は欠かせない。そしてこれにはその両方が、きっちりそろっていた。しかも、外には怪獣。人型だし。まさに僕らの目の前にあったのは、完璧な「正義の巨大人型ロボット」だった。きっと、父さんが妙なところから現われて、僕か兄さん、もしくは僕たち二人を指差したりしながらこう言うのだろう。

『さあ、乗るのだ! これが正義のロボット、エバだッ!』

でも、これはアニメやゲームじゃない。現実の世界だ。

巨大ロボットなんてありえない。

巨大ロボットを見たと訴える人がまず行くべきなのは、コクピットなんかじゃなく病院だ。

そうだ、ありえないはずだ、それなのに――

そんな常識を全てひっくり返して僕らの目の前に鎮座ましまするこの紫色の巨大ロボットは、完全に僕らの理解の範疇を超えていた。

横で何やら説明するミサトさんと赤木博士の声が、全く頭に入らなかった。

僕はぺたりと床に座り込んだ。

その横でやっぱり兄さんも、へなへなと座り込んだ。

天井を見上げて、僕はぽつりと言った。

「正解、兄さん」

そんな僕を見て、兄さんは深く嘆息し、肺に残る最後の空気を追い出すように、小さく吐き捨てた。

「……嬉しくない」

もっともな答えだった。僕も、こんな大正解、ちっとも祝う気にならない。

#11

「……ンジ君! シンジ君!」

おれは呼びかけられて我に帰った。おれを呼ぶのは、赤いジャケットの女の人……ミサトさんだ。

ここは何処だ? 俺は自分に問う。ここはロボットの前だ、そう答えが返ってくる。目の前にロボットが見える。そうだ。おれたちはロボットの前に連れてこられたのだ。

隣を見るとシンジがやはり放心していた。おれにミサトさんが声をかけていたように、シンジには赤木博士が声をかけていた。

「……はい」

とりあえずおれはミサトさんに返事をした。シンジは相変わらず返事をしない。赤木博士の顔色が少し変わり、声が少し荒くなった。

なぜこの人はシンジのことを心配するのだろう、と俺は思った。彼女はおれたちにさっき会ったばかりだ。ちょっと返事しないくらいでそれほど心配してもらう義理ではない。少なくとも、顔面を蒼くにされるほどの縁では、恐らくないはずだ。しかも、さっき適当なことを言っておれたちをここまで連れてきた女だ。それなのになぜこの人は、俺たちが放心したとたん、さっきまでの「クールな女」の仮面を脱ぎ捨てて軽く世界が終わったような顔をするのか。おれには分からなかった。

「大丈夫なの? 突然二人して座り込んじゃったから、どうしたのかと思ったわよ」

「大丈夫なわけ……ないですよ」

ミサトさんのあからさまに間抜けな質問に答える。大丈夫なわけがなかった。分からないことが多すぎる、とおれは思った。そしてそれは半分本当で、半分は間違っていた。確かに分からないことはたくさんあった。おれが生まれてから昨日までに知りえた秘密など、今日知った謎に比べればほんのちっぽけなものでしかなかった。だがその一方で、ここまでおれたちの予想通りに事態が進んでしまっているのもまた事実だった。ちゃんとロボットはそこにあった。この調子で行くと、次にやってくる事態は……

「久しぶりだな、シンジ」

ほら来た。この調子で行くと、次にやってくる事態は、親父からの命令だ。そしてその通りになった。決してお約束を外さない。

スピーカーから流れる低い男の声。この声には聞き覚えがある。

おれたちを呼びつけた悪魔の使者、じゃなくてその親玉の声だ。

放心していたシンジが、はっとしてロボットのさらに上を見、叫んだ。

「父さん!」

おれはシンジの視線を追った。天井に、こちらに向かって開いたバルコニーのようなものがあった。その中心に、親父が立っていた。

おれは言った。

「……親父」

おれたちの呼びかけが聞こえたのか聞こえていないのか、親父はこちらを見て言った。

「出撃だ」

命令されたのは、おれか、それともシンジか。恐らく両方だろう、とおれは思った。自分の二人の子供に同じ名前をつける変態だ。もしかすると、彼はおれたちが双子だということも知らず、自分の「一人息子」に名前を付けたつもりなのかも知れない。もしくは、シンジ――「二」という意味が含まれたこの名前は、もともと双子の両方を兼ねるようにつけられたのか、どっちにしろ普通ではなかった。

そういう男だ。一見しておれたちの区別がつくとは思えなかったし、そういう雰囲気でもなかった。「『どっちでもいいから』出撃しろ」と、そういう意味なのだろう。

……これも、予想通り。最悪だ。でも、このまま流されるわけには行かない、よね。

しかし、おれが発言する前に、横にいるミサトさんが食ってかかった。

「待ってください!」

親父がスッとミサトさんを見下ろす。ミサトさんは続けた。

「レイでさえ『シンクロ』には七ヶ月かかったんですよ。今日来たばかりのこの子に今からではとても無理です!」

シンクロ? 水泳がどう関係するのか分からなかったが、とりあえず関係するらしい。必死だ。しかし、その口調はおれたちを心配するというよりは、これからの事態を憂慮しているという表情だった。

赤木博士が答えた。

「葛城一尉、今は使徒撃退が最優先よ」

ミサトさんは、親父に話しても勝てない(あるいは、話にならない)と思ったのか、赤木博士の方に向き直る。

「だからこそです、赤木博士、座っているだけでは使徒には勝てないわ」

「起動しなければ身も蓋も無いわ。誰であれ、シンクロ可能な人間を乗せるしか手はない。座ってるだけでもね」

「さっきの自信の源はそれ? よしんば起動したとしても! 起動しただけで動かない兵器なんてお笑いよ。こちら側の切り札をみすみす捨てる気? 敵に奪われでもしたら!」

「それでは作戦部にはエヴァを使わずに戦局を乗り切る他の良い方法があるのかしら、葛城一尉? 現時点で、通常兵器で使徒には勝てないわ。さっき見たはずよ。今、攻めて来られたら、終わりよ」

「しかし!」

「葛城一尉」

上から声が響いた。親父の声。

「座っていれば良い、それ以上は望まん。これは命令だ、葛城一尉」

話が止んだ。ミサトさんは唇を噛み、赤木博士と親父は顔色ひとつ変えなかった。

おれの横ではシンジが、何を言われているのかわからないという表情で親父を見ていた。次は、おれの番だ。おれは親父を睨み、言った。

「……これに乗れ、って?」

「そうだ」

「……そのためにおれたちを呼んだの?」

「そうだ」

「今まで放っておいて?」

「必要になったから呼んだのだ。それだけだ」


必要になったから、呼んだ、それだけだ。父さんはこともなげにそう言った。先ほどから鋭い目つきだった兄さんはますます鋭い目つきになった。その顔がどす黒くなる。

父さんの言っていることは全然分からなかったが、兄さんのことは痛いほどわかった。兄さんは怒っている。ものすごく、怒っている。怒っている時の兄さんには手がつけられない。強いというわけでもないが、ただ、後先考えない。僕は兄さんと同じだから、ひょっとすると、僕にも兄さんのように凶暴な部分があるのかも知れない。だが、兄さんは、必要なときにはその凶暴さを外に出す。それが僕と違うところだ。

僕は怖かった。この状況も、父さんの言葉も。

いつの間にか、ここに来ていた。

いつの間にか、僕はこのロボットに乗ることになっている。

何も分からない。怖い。怒る間もなく、ただ、怖かった。

兄さんに続いて、僕の口からも言葉があふれ出した。

「何を言ってるの? 父さん? 僕たちがこれに乗る? 外の怪物と戦う? 冗談だろ? 無理だよ! 出来るわけ無いじゃないか! 僕たちに死ねっていうのかよ? 父さん!」

僕の言葉は兄さんの言葉を促した。兄さんが僕の言葉に続く。

「そうだ! 何考えてるんだよ! 今まで放っといた子供をいきなり呼びつけて『ロボッにト乗れ』? ふざけるなよ! 乗れるわけないじゃないか! 頭どうかしてるんじゃないのか!?」

「説明を受けろ。お前たちが適任だ。お前たちが乗らなければ、私だけではない、全人類が絶滅することになる」

流れるように父さんは言った。言っていることの意味が分からなかった。お前が適任? 操縦の仕方も知らないのに? 全人類が死滅? 何を言っているんだ父さんは?

「何で僕たちなの? わかんないよ! 何で僕たちなんだよ!? 軍人がいるんだろ? その人たちが乗ればいいじゃないか!」

隣のミサトさんを指差して言った。ミサトさんの顔が、少しゆがむ。

知ったことじゃ、ない。

「他の人間には無理なのだ、シンジ。今はわからなくていい。時間がないのだ、出撃しろ、命令だ」

僕の中で、何かが切れた。僕は叫んだ。気付くと兄さんも一緒に叫んでいた。

やっぱり双子だ。

「命令? ふざけるな! 嫌だ! 何て言われたって、乗らないからな!」


「……そうか」

俺たちが叫び終わると、親父は幾分か落胆したような声で、ぼそりとそう言った。隣にいるシンジが肩を小さく揺らす。

「ならばお前など必要ない、帰れ」

シンジの顔が青褪めた。

#12

周りは慌しく動き始めていた。

「パーソナルパターンを『レイ』に書き換え! 再起動よ!」

赤木博士はおれたちを一瞥し、踵を返し橋の向こうへと消えた。

「う……うう……」

シンジが崩れ落ちた。そりゃそうか。いきなり呼びつけられたと思ったら「出撃」、嫌だと言ったら「必要ない、帰れ」って。おれたちはまるで捨てられた人形だ。父親に幾分かの期待を抱いて(それが無駄かもしれないとは思っていたとしても)やってきた子供が落胆するには十分すぎる状況だった。

そしてそれは――

「おれもおんなじ、かぁ。あはは……」

鼻が熱い。おれの目からも、いつの間にか涙が出ていた。「要らない子供」という言葉が頭をかすめる。おれたちは親父にあった。何故ここにおれたちを呼んだのかを知った。だが、すっきりとは来なかった。おれたちは、これからもこの親父を引きずり続けるのかも知れない。例えここがそんな子供の感傷など何の意味をも持たない軍隊の基地であったとしても、それがなんだ、とおれは思った。おれたちは軍人じゃない、何も説明されずに連れて来られただけの、ただの子供だ。子供には子供の都合がある。子供が親に捨てられて泣くことを、誰が馬鹿にできるだろう。

おれたちは板ばさみだ。ここで乗れば、死ぬかもしれない。しかし乗らなければ、きっと、あのとき乗っていればという思いにさいなまれるだろう。それ以前に、この世界が終わるのかもしれないが。

そこまで考えて、しかし、とふとおれは思った。ちょっとおかしい。おれたちが乗るのを拒否したとき、親父はそれほど動じてはいなかった。世界が終わるというのならもう少し焦ったりしても良いようなものだ。

そして同時に、赤木博士の話を聞いたときに、おれは少し拍子抜けしていた。「『レイ』に書き換えて再起動」その他の話は良く分からなかったが、これは要するに「レイ」という正規のパイロットがちゃんといて、その人が起動させるという意味だろう。だから親父はそれほど動じなかったのだ。あるいは、「人類が滅亡する」というのもおれたちにかまをかけただけかも知れない。

つまりは、おれたちはあの親父の酔狂で呼び出されたのだ。

それに気付いた途端、涙も出なくなった。隣のシンジが、相変わらず蒼い顔で、突然表情を変えたおれを見た。おれは言った。

「……『レイ』って誰?」

「それは……他のパイロットの……人……え……あれ……?」

ぽつり、ぽつりと声が聞こえる。どうやらシンジもおれと同じような結論に至ったようだ。

「……ね?」

「おかしい、よね」


そうだ、ここはおかしい。どんな組織だ、と思った。兄さんに言われて考えてみると、やっていることが怪しすぎる。よくよく考えると、芝居か何かにしか思えなかった。いくらお約束だからといって、子供が兵器のパイロットだなんておかしすぎる。何の必要があるのだか分からないが、緊急時に小芝居をやるような人間に地球の命運を任せていいのだろうか。僕は自分に問いかける。そして、それは危険だ、とすぐに結論は出た。

ふと周りを見ると、ミサトさんがこっちを見ていた。心配そうにしているが、それも演技かも知れない。僕は息を吐いた。突然視界がはっきりしたような感じがした。隣では兄さんが考え込んでいた。彼はいつも自分と相手との距離を正確に測ろうとしている。そして出来るだけその距離に従って動こうとする。たぶん今考えていることは「ここは胡散臭いし、信用できない。今のところは、まだ敵ではないが、味方でもない。黒に近いグレー」と言ったところだろう。

僕だって同じ考えだ。


おれの隣で、シンジが冴えた目になる。眼をスッと細めて、おれを見た。状況に流されやすいところはあるけれど、頭が動き出せばおれより回転はずっと速い。恐らく、もうおれが考えたことも、おれが考えていることも大体は分かっているのだろう。

おれが新しいものに出会ったときにいつもするように「この団体とおれの距離」を測り終えたとき、ちょうど、おれたちの入ってきたのとは反対側のドアが開いた。どうやら、「レイ」という正規のパイロットがやってきたようだ。しかし、入ってきたのはおれが想像したようなものではなかった。おれは、正規のパイロットなのだから、筋骨隆々とした男とか、そういう類の人間がヘルメットでも持って走りこんでくる様を想像していた。しかし、実際に入ってきたのは、救急病院などで人を乗せて運ぶ――ストレッチャーだった。

どういうことだ?


どういうことだろう?

「これはたぶん茶番劇」ということでやっと落ち着き始めた僕は、入ってきた担架にまた混乱していた。そして、その上に載っていた人……それは、僕をさっきの何倍も混乱させた。

そこにいたのは「正規のパイロット」などとはとても思えない、子供――女の子だった。

#13

やってきたのは僕たちと同じくらいか少し下くらいの歳の、線の細い女の子だった。パイロットという言葉には僕たち以上に相応しくないように思える儚げな女の子。僕は混乱した。彼女が正規のパイロット? そんな馬鹿な? ありえない、そう思った。その子――「レイ」という名前らしいその女の子は、線が細く、血の色そのままの赤い目と色素の薄い白い肌、そして肌と同じく色素が薄い――黒髪の色素が薄くなったらこうなるのだろうか――薄く蒼味がかった銀髪を持った、どこからどう見ても、何かの病気の女の子だった。そしてどこからどう見ても瀕死の女の子だった。パイロットのスーツなのだろうか、ダイビングのボディスーツのような服を着ている彼女の腕や頭には、幾重にも包帯が巻かれ、腕には点滴が打たれていた。

「レイ、予備が使えなくなった。……出撃だ」

父さんは信じられないことを言った。いや、確かにそれはさっき赤木博士も言ったことだけれど……やはりおかしかった。ちょっと待って。この女の子に戦わせる? そんなのどう考えても虐待でしかない。いや、本当に正気なのか? 茶番とか通り越して意味不明だ。

しかしこの女の子の答えはさらに常軌を逸していた。

「はい」

一言、しかしきっぱりと彼女はそう言った。辛そうな顔で身体を揺らし、シーツをつかむ。手を踏ん張り、苦しそうに小さい喘ぎ声を上げながらゆっくりと身体を起こしていく。誰もそれを手伝わなかった。場を不思議な沈黙が支配する。何故誰も動けなかったのだろう。ある人は、その変に神々しい場の雰囲気に呑まれてしまったのだろう。兄さんは僕のほうを見た。後数秒もすれば、恐らくこの戒めのような雰囲気を断ち切って走り出すだろう。そして僕は、何かが引っかかっていた。苦しんでいる彼女の顔をどこかで見たことがあるような、そんな気がした。

そのときだ。地面が揺れた。最初は小さく、次に大きく、そしてまた小さく。規則的なゆれが響く。だが、その揺れは徐々に大きくなっていく。

「この音は……#3?」

「ヤツめ、ここに気付いたか」

さっきの怪獣がまた動き出したのか。

ごうん、と今度は近くで揺れが起こった。音だけではない、身体で衝撃を感じた。ミサトさんが何か叫んでいる。どうやら、エレベータで運ばれて来たときにジオ・フロントの上にぶら下がっていた建物が、衝撃で落ちてきたらしかった。

揺れがどんどん激しくなる。

天井の電灯が落ちた。

いけない。

そこには「レイ」さんがいる。

ストレッチャーが倒れる。

「あぅ!」

「レイ」さんが小さく叫んだ。痛みに顔がゆがむ。

その声に、戒めを解かれたように兄さんが走り出した。僕もほぼ一緒に走り出す。兄さんが「レイ」さんのところにたどり着く。兄さんは彼女を抱き上げようとした。

「危ない! よけて!」

僕は衝撃に転びながら叫んだ。ミサトさんも同じようなことを言っていた。

兄さんが「レイ」さんのところにたどり着き、彼女を抱き上げようとするのと、その瞬間に来たさらに大きな揺れが、建材を兄さんたちの上に落としたのは、ほぼ同時だった。

兄さんは彼女を抱きしめて身を屈め、僕は受身も取れずしたたかに床に身体を打ちつけた。


死んだ?

おれはそう思った。全てがスローモーションだった。シンジの声が聞こえて、おれはとりあえず「レイ」さんの上に被さった。意味が無いかもしれないが、これくらいしか出来ることはない。向こうを見ると、シンジはおれに叫ぶので必死だったのだろう、揺れに足を取られて床に身体を打ち付けていた。

そして、気づく。おれは死んでない。手のひらに柔い感触を感じた。もしおれが死んでいたら、この感触を感じることはない。同時に背中に鈍い痛みを感じる。だが、それほどの痛みではない。落ちてきた建材が直撃していたら、きっと死んでいるはずだ。

何故? 建材は何処にいった? 疑問符が頭をめぐる。

おれは天井を見上げた。

そこには巨大な腕があった。

#14

僕は兄さんのほうを見た。死んでない。そして僕も、どうやら生きているらしかった。僕の目の前には、兄さんと、「レイ」さん、そして僕を守った大きな腕があった。

僕は兄さんによろよろと歩み寄った。

「大丈夫?」

「……死んでない」

兄さんは忘我の表情だった。「レイ」さんは相変わらず苦しそうな表情だ。包帯から血が滲み、兄さんのシャツにもそれはゆっくりと染み込み始めていた。

「ロボットが、守ったんだ」

ぼんやりと腕を見上げ、兄さんは言った。

「……なんだ、自動で動くんじゃないか……ぅ」

兄さんが顔をゆがめた。どうやら、背中に守りきれなかった建材が当たったらしかった。

ん? なんだろうか? 兄さんの苦しそうな顔を見たとき、僕の中でまた何かが引っかかった。

ミサトさんが駆け寄ってきた。僕は思考を断ち切られる。

「大丈夫!? シンジ君!?」

「大丈夫なわけ……ない……で……しょ」

兄さんはさっきロボットを見たときと同じ言葉を言った。だがその口調の違いから、兄さんの受けたダメージの大きさが分かった。

「それより、しん、ジッ……は、大丈夫?」

兄さんはそのままミサトさんから僕に視線を移してたずねた。

「僕は、大丈夫……ッ……その子……は?」

大丈夫ではないようだった。さっきは興奮していたから大丈夫だったが、少し落ち着いてみると、喋ると肩が痛むのに気付いた。さっき転んだときに痛めたらしかった。

「大丈夫なわけ……ないじゃないか」

兄さんは「レイ」さんを抱きながら言った。その声は相変わらず苦しそうだ。後半はほとんど息を吐いているだけだった。息をするのも苦しいらしい。その表情に痛みによる苦しさとは別のものが混じっていた。

その時。僕ははっとした。苦悶にもだえる「レイ」さんを抱く兄さんの表情と「レイ」さんの表情がダブった。二人は、似ていた。そして、それはつまり、僕たち三人が似ているということだった。あるいは僕が一人でここに来ていれば気付かなかったのかも知れない。だが、兄さんと彼女が同じ表情をしているのを並べて見れば、気付かないわけがなかった。

そうだ、僕は一度考えたはずだ。「ひょっとして僕らにはまだ兄弟か姉妹がいるのだろうか? あと二人も?」と。何故今まで気付かなかったのだろう? 他人というには、彼女は余りにも僕たちに似すぎていた。

僕は背筋がそら寒くなった。

僕はなんという人の子供なのだろう。瀕死の身内をも利用する男、碇ゲンドウ。僕たち二人は……いや、もしかすると「レイ」さんも含めて三人は、その男の子供なのだ。

芝居? そんな生易しいものじゃなかった。父さんは本当にあんなやり方で僕たちを乗せる気だった。そして、僕たちが無理だと分かれば顔色も変えずにこんな病弱そうな女の子を乗せようとする。父さんは――いや、この組織は狂っている。

僕は怖かった。何も分からない、僕はどうすればいい? 誰か、教えて欲しい。

#15

「エヴァが、あの子たちを、守った……いけるか? ……よし」

ミサトさんの呟きが聞こえた。おれはミサトさんを見た。冷たい目をしていた。冷たいが、その奥に情念がこもった目。見られた人間の心が冷たくなる目だ。

「良く聞いて、私たちはあなたを必要としている。でもね、エヴァに乗らなければ、ここではあなたは要ら……いえ、用の無い人間なのよ」

ミサトさんは、親父の言葉を繰り返した。ミサトさんは、さっきおれたちがエバに乗ることに反対した時と同じ目でおれたちにエバに乗るよう説得していた。

シンジはちょうどミサトさんとおれの間にいた。肩が震えている。彼女はおれを見ていなかった。

「あなただってお父さんとの再会を喜び合うために来たんじゃないことは分かっていたんでしょう?」

「それは……」

シンジが呟く。ミサトさんは容赦なくシンジを攻め立てるつもりのようだった。声を出したかった。だがおれの口はパクパクと動くだけで一向に音を出そうとしなかった。息が出来なかった。うずくまる。背中が痛い。声が出ない。ダメだ、今声が出なきゃダメなんだよ……!

「何のためにここまで来たの? お父さんにあそこまで言われて黙って帰るの? あなたが乗らないとその子が乗ることになるのよ? 自分を情けないとは思わないの!? ……乗りなさい」

そこに親父が絶妙のタイミングで相槌を打った。

「構わん、役立たずは放っておけ……」

この卑怯者。お前ら。ダメだ、飲まれちゃ駄目だ、シンジ。あの人たちが言っていることは滅茶苦茶だ。おれたちはまさかロボットに乗せられるために来たんじゃないし、親父の言い分なんか出鱈目だ。情けないと思はなきゃならないのは、怪我をしたガキを戦場に出そうとしているあいつらの方だ……!!

『ダメだ……シンジ……ダメだ……!』

声にならない。シンジには届かない。

シンジの顔はもう蒼白になっていた。シンジは人に要らないと言われるのが怖い。おれだって怖いけれど、シンジはおれよりずっと強くそれに怯えている。おれたちはずっと要らないと言われながら親戚をたらいにされてきた。しかも、そのお陰かは知らないがシンジはすっかり他人に従順な人間に育った。少し過ぎる。シンジはたぶんおれと逆のやり方でこの世界をやり過ごそうとしているのだ。そんな人間をいたぶるために彼らの言葉は十分だった。

「ボクは……乗らない……乗らない……」

おれはやっと、それだけを声に出した。でもそれは悪いほうにしか働かなかった。おれは、おれたちは、とは言ってなかった。おれの薄情者。

「ねえシンジ君。お兄さんはあの怪我では乗れないわ。それに彼には乗る気はないみたいね。今乗れるのはあなただけ。お兄さんみたいにその子を捨てる? お兄さんが死んでもいいのね?」

ミサトさんの言っていることは論理的には多分おかしかったが、感情的には完全にシンジを追い詰めることに成功していた。いや、その矛先がおれに向いていたらおれも丸め込まれていたかも知れない。

そして決定的な一言が響く。

「シンジ! 出るなら早くしろ、出なければさっさと帰れ! 邪魔だ!」

シンジがびくっと肩を震わす。おれと「レイ」の方を見る。ダメだ、ダメだ、シンジ、乗るな、乗るな……!

シンジは小さい声で呟いていた。

「……げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ……」

ダメだ。もう、シンジにはおれの声は聞こえていない。

そして、悲しい決意の表情でシンジは言った。

「……やります。僕が、乗ります…………乗ります!」

葛城が悲しそうな顔を作った。止めろ、そんな顔をするんじゃない。お前には、そんな顔をする資格なんかないんだ。そう言いたかった。

シンジが連れられていく。

意識が遠くなってゆく。

白衣を着た奴らが近づいてくる。

「止めろ、近づくな、人殺……し……め……え」

目の前が真っ暗になった。

#16

そして10分後、僕はエバの中にいた。

「逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ……」

僕は呟き続けていた。言うのを止めたら叫び出してしまいそうだった。

兄さんは怪我をしている。僕が乗らなかったら、あの女の子が乗ることになる。父さんも乗れって言っている。ミサトさんも乗れって言っている。乗るしかない、乗るしかないんだ。自分に言い聞かせた。

僕は間違ってもヒーローなんかじゃなかった。

「エントリープラグ注水!」

オペレータの女の人の声が響く。足元から水が湧き上がる。

「うわっ! な、なんですかこれは!」

「心配しないで、それはL.C.L.というものよ、肺がL.C.Lで満たされれば直接呼吸が出来るようになります」

赤木博士の声が聞こえた。さっき言わなかったじゃないか。声が届いたころには僕の顔まで水に浸かっていた。遠くからミサトさんが何か言うのが聞こえたけれど、良く分からない。僕は息を吐いた。L.C.L.オレンジがかった黄色い水が口の中に入ってくる。苦しい、息が出来なくなる。死ぬ、死ぬ……あれ。大丈夫だ。おぼれてない。

僕が呆然とするうちに、オペレータさんが次々と作業をしている。オール何とか、問題なし、異状なし、という言葉、そして、驚いている声が聞こえた。シンクロが高い、僕には良く分からなかったが、高いのだから悪くはないんだろう。どうやら本当に僕はこれを動かせるらしかった。

ロボットの周りの止め具がなくなっていく。ロボットの全体像が見えた。脚もある。ほんとうに人間の形をしていた。

しばしの沈黙。モニターのむこうでミサトさんと父さんが話をしていた。

話が終わった。

「発進!」

ミサトさんの声が響いた。

瞬間、ものすごい力で下に押し付けられて、気が遠くなった。

#17

遠くなりかけた意識が戻ったとき。

僕の前には、さっき見た怪獣がいた。

「いいわね?」

「は……はいっ!」

声が震える。本当はよくなんかない。後十年は猶予が欲しい。もしくは今すぐここから逃げ出したかった。だが僕の口はその思いとは裏腹の返事をする。

「最終安全装置解除! エヴァンゲリオン初号機、リフトオフ!」

この期に及んでも、僕の心には使命感は湧いてこなかった。

ああ……やっぱり。

「……来なければよかった」

Neon Genesis Evangelion L
EPISODE:1 “If I hadn't come here.”end.
←back  index  next→