Warehouse/02

死人だって生きているんだ友達なんだ

 

僕はいわゆるひとつのアンデッドって奴だ。

日本語に直すなら生ける屍ってことになる。

とはいえ、別にお化けだとか、ゾンビだってわけじゃない。キョンシーでもない。念のため。

僕らはお化けじゃない。でも、確かに僕らは死にながら生きている。

それはこの情報社会が生み出した幻想であり、過密化する人の世が生み出した存在――とかなんとかもったいぶっても、別に何か得をするわけじゃないから言っちゃうけど。


まぁ、早い話が。


戸籍上死亡扱いになって墓まできっちり完備されてるのに、その実生きている人間ということだ。


そういうのが、この世の中には割とたくさんいる。


僕の場合は自分が死んだことを知っているからまだマシだけれど、そうでない奴だって多い。

ほら、世の中自分が死んでることに気づかなかった死人ってのが、けっこういるんだ、これが。

僕の隣にいる爺さんみたいなのはまさにその典型例。


「んああ?」

「あ、いや、なんでもない、なんでもない」

「そおかああァァァァ」

「うん、ほら、しっかりご飯食べとかないと、次はほんとに死んじゃうよ、爺さん」

「わァかったァァァ」


……ふう。


こういう場末のホームレスなんかは「自分が死んだことに気づかない死人」になる確率が最も高い人々だ。そもそも政府は彼らを嫌ってて、何かとすぐに死人にしたがるからね。

ある時、そういえば年金でも貰おうか、なんていう段になって、自分が死んでることに気付くってわけだ。

だから、僕のいるここにも、さっきの爺さんを含め、ホームレスからアンデッドになった境遇の人はそれこそ腐るほどいる。たまにその辺で本当に腐ってる。

だが、それだけってわけでもない。

借金のカタに生命保険をかけられて安く売られた馬鹿も多くいる。身の丈に合わない借金、友達の保証人、情報詐欺で借金の額面ばっかり増えてしまった被害者――そんなところだ。彼らの数はホームレスに次ぐ。その次に後ろ盾がない移民、それからスリルを目指した世捨て人なんかが後に続く。

どれにしたってそう珍しくない。二十世紀の内から、そういう風に身を持ち崩す人間はそれなりにいたものだ。

昔だったらいくらなんでも、アンデッドにはならなかっただろうけどね。

その他、変わった例では、たまたま偶然、実に運悪く、高級官僚やら社会的地位にある人たちの見てはいけないものを見てしまった善良な市民なんて人もいる。

こちらはそれこそ情報社会の犠牲かもしれない。

昔なら、生きている人間を情報だけで消し去るなんてこと、そうそうできなかっただろうから。

でも、今ならそういうことは簡単にできてしまう。

なんとも、怖い世の中だ――って、それを知っているのは死人ばかり。

死人にできるのは草葉の陰で泣くくらいのもんで、生きている人間に忠告するなんてことができるはずもないのだ。


「なんだアイツ、一人でぶつくさ」

「新入りー! さっさと行けー!」

「はーい!」


殴られそうになって、僕は急いで返事をする。

「うるせえ、ほっとけよ」とは口に出せないものな。死人の命は軽すぎる。

死人にくちなし。金言だね。


と、話が逸れたので元に戻そうか。


僕らは生きる屍だ。確かに生物学上は生きているが、戸籍上は死んでいる。なるほど 生ける屍(リビング・デッド) とはよく言ったもんだ。

昔の人は凄い、こんな未来の事を予見していたなんて。

そう、未来――リビング・デッドの言い伝えが信じられてたころから考えると相当未来だ。


進んだ科学、進んだ社会、進んだ精神。


人権バンザイ、だ。


進んだ社会では、人権が尊ばれ、個人情報が保護される。

この国だってその例に漏れない。

個人情報保護が叫ばれるこのご時世、個人情報は基本的に情報管理院が一括管理している。首都にある、どでかいビルの中だ。

そこに入る情報は入念に選別され、虚偽の情報は厳正に跳ねられる。

完璧、と言ってもいいくらいだ。


そう。システムは完璧すぎるくらい完璧だ。


でも人間はそうじゃない。


確かに情報は厳正に管理され、間違いは理論上はゼロだ。しかしその分、もしも間違いが起こってしまえば――「起こしてしまえば」それを訂正するのも難しい。

システムはあまりに完璧すぎて、思わずフール・プルーフを忘れてしまうくらいだったんだ。


そして、そこを利用されてしまう(フール)がいる。


世の中は馬鹿には生き辛く、頭のいい奴にはかっこうのテーマパークになるようにできている。


僕は前者だ。


とはいえ、現実逃避しても始まらない。こんな身の上でも生きていくためには働かなくてはならないのだ。

幸いなことに、生きている人間の社会や会社があるように、死んでいる人間の社会や会社というものもそれなりにある。

化け物を扱ってくれるような会社は、実に化け物向けの仕事を紹介してくれた。

建設作業員。

ビルの清掃員。

コンビニの店員。

そんな生易しい肉体労働の方が何十倍マシだったのか。生前の恵まれた自分の環境に涙してしまう。


さてここで問題です。ゾンビのお仕事はなんでしょう。


情報局のサーバー冷却機の管理?

ケーブル保守作業ロボットの作業監督?

殴られ屋?


そんな甘いもんじゃない。


いやいや。皆さんよくご存知のはずだ。見慣れているはずだ。

なに、見慣れてなんかない?

仕方がない、少しヒントを出そう。

少し大きなアミューズメントパークに行ったことは?

よっぽどの生真面目な人じゃない限り、一度くらい行ったことがあるだろう。


よし、じゃあ、もうひとつ訊こう。


そこで、ゲームをしたことは?


ほら、生きてる人間が銃ひとつでゾンビの群れに立ち向かう、あれ。


そうそう、敵はホログラムだって言われてる、あれ


あれ、皆さんは中に人なんかいないと思っているでしょう。

いやいや、それは冗談です。

ちゃんといるんですよ。


「中の人」は。


特に――最新型の、


「超リアル! まるで生きているようなモンスター!」


なんてのには。

死んでる人間なんだから、これ以上死にようがないって、そりゃ正論だけどさ。

だからって、本当に見目麗しいゾンビになるなんて思いもしなかったな。


「うわっ!」

「ひいっ!」

「ぐはっ!」


ああ、今日の客は強いなあ、やだやだ。


……え? もう、お化け屋敷に行くの、止めようって?


またまた冗談を。


そんなことですむわけないじゃない。


あなたは知らないかもしれないが、社会のあらゆるところでアンデッドは活躍している。

仲間内には、僕みたいに名前だけのゾンビ、モンスターになった奴もいるし、本当にそうなった奴さえいる。

僕らのような存在を「アンデッド」と人括りにして、売る奴らと買う奴らがいる。

彼らはそれはそれは上手いこと僕らを使う。


生体実験やら。

鉄砲玉やら。

兵隊やら。


目に見えないところで僕達アンデッドは大活躍!


あなたのシャンプーのテストだって。

あなたの街のマフィアの抗争だって。

あなたの国の平和だって。


僕らがいなきゃ成り立たない。

でも、あなたたちはそんなことを知ることはない。

なるほど、人目につかず、特別な力を持った人間には見える。


それってそのまま、お化けじゃないか。


「って、どうです? 上手いこと言ったと思いません?」

「んな暇あったらさっさと次行くぞ!」

「今日の客は軍人らしい! 下手な当たり方したら、今日で仕事あがりになっちまうぞ!」


やれやれ。

お化けにもジョークは必要だと思うんだけどな。

アンデッドってお化けじゃないんだっけ? まぁいいや。


さて、そんなゾンビだかアンデッドだか彼らは何の為に生きているのか?

死人だって生きている。

そしてここでは、恨み嫉みで生き続けられるわけじゃない。

それこそ、生きた人間よりずっと健全かもしれない目的があるのです。


働いて働いて、一定の功績を収めたら――


僕らは生き返られるのだ。


やくざでも、兵隊でも、こういうテーマパークでも。

上手く立ち回った奴は、アンデッドだった自分を殺して、全く別の人間に生まれ変わることができる。


別の名前、別の国、別の街。


こういうの、輪廻転生、って言うんだっけ? 本当に、昔の人はよく頭が回るものだ。


ま、とにかく。

今日も僕らは社会の端になんとなく溶け込みながら、死んだり生き返ったりを繰り返す。


僕らはアンデッド。生きてるのに死んでて、死んでるのに生きてる。


「キャー!」


ドォン!


「うぎぃ!」


弾が当たって肩がはじけ、思わず叫び声が出る。

けど、なあに、僕はまだ生きている。あはは、なんだか楽しくなってきたぞ。

このターンが終わるまでは後十秒。なんとか、死なずに済みそうだ。


ドン!


銃弾が飛んで、隣の奴の頭が吹き飛ぶ。


でもそんな中で、それでも僕は陽気にお客を脅す。


そんなふうにしながら、あなたの隣で今日も元気に死人達は生きているのだ。

note

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アンデット祭り 〜死んでも愛してる〜参加作品の再録。同作はこちら
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作者:north×寝太郎
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