アレクの働く牧場は学校からかなり離れていて、毎日学校が終わるや牧場へと走らなければならなかった。
それというのも放浪鯨のせいだ。
放浪鯨は大食で、のべつまくなし食べ続けなければ自らを空中に固定しきれない。もしアレクが一日でも世話を仕損じてしまえば、牛たちがめいめいに鳴いているのを聞くのが好きな鯨たちは、声も上げないままその納屋に巨体を墜としてしまうだろう。
そうすれば牛たちはもちろん鯨たちも無事ではすまない。だから、アレクはいつも農場へと走る。
自然、アレクには学校にあまり友達がいなかった。
しかしひとりぼっちというわけでもなかった。
クラスメイトのユーリだけは、そんなアレクに付き合って牧場へと足を運んでくれる。
「この場所が好きなんだ」
最初に出会ったのは春の終わりごろで、柵にひじを載せて一人何をするでもなくぼうっと空を眺めているのを見かねて「何をしているの」と問いかけたアレクにユーリはそう答えたのだった。
「ここには父さんも母さんもいるから、ここに来ると僕は辛くない」
「ユーリのお父さんとお母さん、ここで働いてるの?」
それにしては、牧場で労働している者の息子のような雰囲気は感じられなかった。物静かで頭が良さそうで、けれど少しだけ唐突にも思えるような物腰は、労働者ではなく、どこか昔話に出てきた大科学者を思わせた。
そこでアレクの印象に似合う、煙に巻くような口調でユーリは答えた。
「そうとも言えるし、そうでないとも言える。……ところで、君は誰だっけ。どうして僕の名前を?」
「……クラスメイトだからだよ。ユーリだろ? 窓際に座ってる。いくらこっちが廊下側の一番後ろにいるからって、忘れてるのはひどいよ」
「ああ、そうだっけ。ごめん」
そう言って、ユーリは鼻先をぽりぽりと掻いた。聡明そうな姿とは似つかわしくない間の抜けた仕草に、アレクはぷっと吹き出した。
「窓の外ばかり見てるからそうなるんだ」
そういえば、ユーリの空好きは有名だった。しかし成績は誰も敵わない。アレクがユーリを知っているのも、半分はそのせいだ。窓際ユーリ、神童ユーリ。浅黒い肌の末裔、奇妙な子、チュラタムの街一番の変人ユーリ。
だがそんな風評には何の興味もないと言うように、ユーリは身軽な口調で言った。
「そうだね……空が好きなんだ。ねえ、アレク。またここに来ていいかな?」
「何だよ、覚えてるんじゃないか」
「席順だけね。廊下側の一番後ろ、なんだろ?」
アレクは目を見開いた。ユーリは端整だった表情を不意に崩し、にっと笑う。そして笑い顔のままもう一度問うた。
「ねえ、またここに来てもいいかな? 邪魔じゃなければだけど」
「いいよ」
なるべく素っ気なく聞こえるようにアレクは答えた。自分の心が弾んでいることを隠し通せると、その時は本気で思っていた。
それからは牧場で会うのが友達になった二人の日課になった。
アレクは仕事をしながら、ユーリは宿題をこなしながら、なんでもない話をする。そこにいるのは教室にいる劣等生と優等生の二人とはまるで違う。
「鯨は、どうやって空に浮かんでいるか知ってる?」アレクはよく得意げにそんなことを言った。
「いや、知らないな」と、そういうときには決まって、真面目な顔でユーリは答える。嘘ではない。鼻先も掻かないし、肩もすくめない。
「あれは斥力を利用してるって話だよ。斥力って知ってるかい?」
「斥力は知ってるよ。ものが反発する力のことだろ?」
「そう。鯨はその力を使って浮かんでるんだ。でも、それだけじゃない。鯨はジェットだって持ってるんだ。飛び立つときには来てみるといいよ」
言ってから、アレクは少しの間考えるような仕草をした。そしてひいふうみい、と数えてから、首をかしげたユーリにまた得意げに、
「ちょうど今から三ヶ月と少しだね。夏休みが明けたころの、ちょうど満月の夜になると思う。満月の日には、ちょうど鯨たちが空に登りやすくなるから」
と教えた。
だが、いつもアレクが鯨のことを教えるとことさらに驚いてみせるユーリは、こちらには反応を返さなかった。
どうしたのだろう、とアレクはそのうつむき顔を覗き込んでみる。
「……ユーリ?」
はっとしたような顔でユーリはぷるぷる、と頭の中にある考えを追い出すように首を振った。
そしてごまかすように鼻先を指で擦りながら曖昧に笑う。
「ああ、ごめん、ちょっと考えごとをしていて。そうか、あと三ヶ月なんだね」
話す間に、その笑顔は沈んだ無表情へと変わって行った。
「そうしたら、ここにいる鯨はみんないなくなっちゃうんだ。遠くへ行って、二度と、帰ってこない」
ぽつりと呟いて空を見上げる、その背が寂しげにアレクには見えた。
アレクの前では少しだけひょうきんなところを見せるから気づかされにくいが、普段からどこか儚げに見えるこの男の子がそうしていると、ますます孤独に見える。
まるで手の届かない宇宙にユーリがひとりぼっちでいるのを遥か遠くから眺めているようで、たまらない気持ちになる。
そしてそれは事実なのだった。
この牧場で働いている中にユーリのお父さんもお母さんもいないのを、アレクはもう知っていた。それどころか、ユーリはいつも、誰もいない部屋に帰っていくのだということすら。
だがそれでも、アレクは何も言わなかった。ユーリは一人だ。でも、だからこそこうしてここに来てくれる。
アレクにはそれだけでよかった。
だからことさらに笑って、アレクはどん、と胸を叩く。
「居なくなるのは鯨だけだよ。ぼくはここにいるんだから」
するとユーリはいつものように曖昧な笑み、それからいかにも聡明そうな悪戯っぽい笑い顔になってアレクに笑いかける。
「ぼくが好きなのは鯨だよ。君はついでだ」
「なんだって!?」
アレクが怒鳴り声を上げる。途端にユーリは逃げ出し、牧草の中を走り出す。アレクは半ば笑いながらさらに怒声を上げ、その背を追いかける。
そして空には、そんな二人を見守る放浪の鯨たちがひっそり静かに横たわっていた。
しかしその日に限っては、笑い声が聞こえることはなかった。
いつも通り鯨はふうわりと空に浮かび、牛はめいめい鳴いている。前学期が終わり、短い夏休みに入る今日、けれどいつものように仕事をこなすアレクも、その隣にいるユーリもまた、憂鬱な顔をしていた。
夏休みの始まりだというのに、笑い声だけがそこから消え失せていた。
いずれ学校が分かれるだろうことは、もうずっと前からわかっていたことだった。
ユーリは学内でも数本の指に入る成績優秀者で、対するアレクは学校にあまり行けないせいもあったが、下から数えたほうが早い劣等生だった。いくらなんでも、同じ上級学校に進めるはずがないことはわかっていたのだ。
しかし、それは少なくともアレクにとっては、ずっと先の話だった。
本当は、そうではなかったのに。
それがわかったのは終業式も終わりというころ、先生がにっこりとしながら言いだした一言を聞いたときだった。
『来期からユーリ君は国立科学院に転入することになりました。みなさん、これはたいへん名誉なことです』
もう数時間はゆうに経っているが、アレクはその言葉を改めて今起きたことのように思い出す。そして手を止めて、悲しげな目で自分を見つめるユーリを見返した。
「どうして教えてくれなかったの? ぼくがきみを責めると?」
現に責めているのに、そのことをユーリは一切言わなかった。ただ一言、ごめん、とだけ消え入るような声で言った。
「どうして言わなかった?」
アレクはなるべく平静に聞こえるように、語気を押さえて言った。
「考えたくなかったんだ。だから言えなかった」
答えるユーリもなるべく、平気な顔でそう言うように努めているようだった。それを見ると、心にあれだけ渦巻いていた怒りの気持ちもどこかへ消えてしまう。
「……いいさ。でも、行っちゃうんだね、このチュラタムを出て、遠くへ」
「そうなるね」
アレクは息を吐いて、苦笑いを見せた。
「そうか……なんだか羨ましいよ」
それは嫌味でもなんでもなかった。
ただ素直に、アレクは遠くへ行けるユーリのことを羨ましいと思ったのだ。
遠くへ行くこと。
それは、きっとずっとこの牧場で働き続けるアレクには不可能なことだ。アレクは牧場の子だ。牛の世話をし、そして稀に今のように放浪鯨の世話をしながらずっとここにいて、いつかはここで死ぬだろう。
それはいかにも詰まらないことのようにアレクには思えた。
思わず、ふうっ、とため息を吐いてしまう。
飼い葉を放り出して、アレクは牧草の上に仰向けに寝そべった。空には雲と鯨たちがいて、片方は白いもくもくした姿を、片方は同じように白いが、しかしそれよりずっとなめらかな腹を雄大に見せていた。
彼らは遠くへ行ってしまうのに、とアレクは思った。ぼくはどこへも行けない。
だから目を閉じて、少し投げやりに愚痴を言った。
「ああ。遠くへ行きたいな。こんな場所じゃなくて、もっとずっと遠くに。放浪鯨が行くみたいに。そう思うだろ? ユーリ」
言いながら何の気なしに目を開いて、そこに映ったユーリの思わぬ表情にアレクはぎょっとした。
ユーリが、怒ったような真剣な瞳でアレクを見おろしていたからだ。
すぐさまアレクは身体を起こしたが、その間にもユーリは視線をそらさなかった。
「本当に、そう思う?」
立ち上がったアレクに、ユーリはそう訊いた。
不意に、アレクは気づいた。
この質問に、この真剣な瞳に答えることができなければ、それきりきっともうユーリは永遠にアレクの手の届かない人になるだろうと。
だからアレクはじゅうぶんに考え抜いたあとで、ユーリをしっかりと見返し、答えた。
「……うん。そう思う。ぼくは放浪鯨のようになってみたい。ここから飛び出して、遠くへ行ってみたい。……ぼくには無理だけど、でもできるなら、そうしてみたい」
雰囲気がふっと緩んだ。ユーリは肩の力を抜いて、いつもの曖昧な笑みに戻った。
けれど、アレクがそれを見て安心した途端に踵を返し、背中越しに一言だけ。
「……帰る」
「え? どうしたんだよユーリ。なんだかおかしいぞ」
「しばらく逢えない。でも――ちゃんと、帰ってくるから」
そしてユーリは振り向きもしないまま歩きだし――やがて走り出した。
「ユーリ!」
アレクはそう叫んだが、けれどその背を追うことはできなかった。
結局、それから夏休み中、ユーリが牧場へ帰ってくることはなかった。
どうして来なくなったのか。それは心配だったが、けれどアレクの方から何かするのは癪に思えたし、そもそも夏休みはそれどころではなかった。
ユーリが走り去ったのとちょうど同じ日の夕食時に、その騒動の種は訪れた。
「突然だが」とお父さんは言った。「新しい鯨が来るんだ」
アレクはお父さんの正気を疑った。
「今だって? だってお父さん。もう出発まで二月も無いよ?」
そう。夏の終わりには鯨たちは出発してしまう。それなのに今から新しい鯨が来るなんて。
「間に合うはずないよ」
「そうかもしれん。だがもう決まったことだ」
「でも!」
「頼む」
そう言ったお父さんには、有無を言わせぬ迫力があった。
「……わかった。でも期待しないでよ。そいつがもしちゃんと飛べなくて死んじゃっても、ぼくの責任じゃないからね」
そうしてやってきた新しい鯨に、アレクは「ユーリ」という名を付けた。こいつのことは好きになれそうもなかったが、友達の名をつけていれば、少しは大事にしてやれるかもしれない、と思えたからだ。
小さな鯨だった。と言っても、その大きさは人間の大人の大きさをゆうに越えている。
そのユーリはまだ、うまく飛ぶことすらできないようすだった。
床に寝そべっていると、その大きさがよくわかった。黒々となめらかな盛り上がりが、数メートルにわたって床に鎮座する。鯨のシルエットを作り出す横向きの尾びれも、ナガスクジラのような丸っこい頭も、腹ひれを兼ねた長い腕も、全て放浪鯨そのものだ。
ただそれは飛んでいないし、そもそも白くなかった。今も空に浮かぶ白鯨たちに比べ、その姿は幾分汚く見えた。
「しっかりしろよ」
餌の入った籠を渡し、ふうふう言いながら起用にその、人間が食べるのとあまり変わらないような料理を食べる鯨の背中をさすってやりながらアレクは言った。
「お前、次のフライトで行くつもりなんだろう? ちゃんと食べないと、置いていかれちまうよ。ほら」
そしてそのたびに、少し照れたように鯨はきゅうん、と鳴くのだった。
それでも二月が経つころ、夏の終わりには、鯨のユーリは見違えるほど大きくなり、その飛行もかなりの安定を見せた。
ぼんやりとその身体が光りだす。そしてふわりと浮かぶ斥力浮遊から、じゅうぶんに高度を上げたところで、ひれの穴から噴出すジェットをあわせた推進に切り替える。
薄く光るジェットは長い腕によって束ねられ、まとめられ、ひとところへと収束していく。
その日も数度全力で空を飛び回った後で、鯨のユーリは屋根くらいの高さへと下りてきた。
「うまくなったじゃないか。でも、もうちょっとスピードは遅くして、持続力を上げた方がいいかもしれないな。持続力ってわかるか?」
鯨がその言葉を理解しているとも思えなかったが、アレクはユーリの口調を思い出しながら先生ぶってそう言った。
人間のユーリと同じように、鯨のユーリも殊勝な面持ちでその言葉に聞き入っている。
「お前たちはここからずっとずっと遠くに行かなくちゃいけない。ここではちょっとの間ぶっ飛ばしていればいいけど、空ではそうはいかないんだ。目指すところまで、ずっとずっと、息切れせずに飛んでいかなきゃならないんだ」
アレクが手をかざすと、鯨のユーリはすうっと高度を落とし、その腹に触らせた。
そして、決まって腕の先を頭の上へとやった。
「お前、いつもそうしてるなあ。なんだ、癖なのか? まるで――」
言いかけて、アレクははっと口をつぐんだ。
鯨の頭の上には何がある?
そこには鼻がある。海にいる鯨なら水蒸気の、空に浮かぶ鯨ならイオンの排気を上げる、人間では鼻にあたる部分が。
鼻に手をやる。それはユーリが照れたとき、ごまかすときに良くする仕草にそっくりだった。
「ユー……リ?」
勘違いかもしれない。勘違いに決まってる。
アレクは自分に言い聞かせようとした。ぼくはどこかおかしいんだ。こんな鯨を、友達に間違えるなんて。
でも、そう思い始めると、何もかもがユーリの仕草に見えた。
「……ユーリ?」
そしてアレクのその声に、曖昧な、優しげな瞳で答えるユーリは、ユーリそのものだった。
そしてアレクはお父さんを後ろから殴りつけ、その秘密をついに知ることになった。
頭から血を流すお父さんは、アレクの仕打ちにも拘わらず怒っているようには見えなかった。覚悟していたような表情で、はっきりとアレクにその言葉を告げた。
「そうだ。あれはユーリだ。かつてユーリだったものだ」
「……どうして」
「放浪鯨は人が成るものだ。身体を組み替え、心を入れ替え、宇宙へと旅立つヒト。かつて大連邦ソヴィエトがその種を生み出し、ロシアが引き継ぎ育てた命の業だ。ユーリの一族はこの国へ渡ってきたその時から、その血族になるべく生きてきた。だからユーリもまた放浪鯨になった、それだけのことだ。彼らは放浪鯨だ。そうなるために生きてきた」
「嘘だ! ならどうして、ユーリはぼくといたんだ! どうして今になって――」
「アレクセイ」
お父さんはユーリの名を呼んだ。激昂するアレクには何の気も使わないという風に、その声は冷然と、静かに響いた。
「嘘ではないんだ。お前は自分が何を言ったか覚えているかい? お前は、ユーリに言ったそうだね。放浪鯨のようになりたいと。ユーリは幼い。だから旅に出るかどうか、選ぶことができた。私自身、ユーリはそうしないと思っていたが、結局父親や母親がそうなったように、放浪鯨になることを選んだ。その心を決めさせたのは、お前だよ。アレクセイ」
諭すでもなく、宥めるでもなく、責めるでもなく。それはただ淡々と、事実だけを述べる声だった。
そして、アレクは逃げ出した。
だからアレクが外に出るのは、その日以来だった。
夜だと言うのに、牧草地は白く照らされている。月のせいだ。満月が煌々と、かつてよりは肥沃になった広大な大地と、そこに浮かぶ鯨たちの群れを照らし出していた。
「馬鹿だなあ、ぼくは。きみはぼくの願いを、替わりに叶えてくれようとしただけなのに」
地上近くに浮かんでいれば、既に数十メートルを数えるほどの巨体はますます大きく見えた。
相変わらず一人だけ、闇に沈むような黒い身体をしたユーリの腹を、アレクはそっと撫でた。
ユーリはさせるがままにしていた。その目は少しだけ潤み、長い腕がアレクの腕に絡んだ。
それがごめんねと謝る仕草のように思えて、アレクは歯を食いしばってそんなユーリを嗤ってみせる。
「阿呆だなあ、きみは。ぼくが怒るわけないじゃないか。ぼくがきみを責めるわけがない」
なめらかな腕にそっとキスをする。引き止めるではなく、無事を祈るために。
今度こそ、アレクは素直にそうすることができた。
「大丈夫。きみがどこへ行っても、ぼくはここにいる。帰ってくれば、いつだってきみはぼくに逢えるんだから」
「アレクセイ。離れなさい――時間だ」
そして空に閃光が走った。
鯨たちが腕を伸ばし、幾重にも重なる青いジェットを噴出しはじめたのだ。青い光の列は、薄い光を放つ腕に束ねられて地上へと降り、その反作用に押されて段々とその光源が空へと上っていく。
交差する閃光の束は月の光よりもなお強い光で空を染め、煌々とシベリアの大地とシルダリアの流れを、その河畔を照らし出した。
かつてそこに繁っていた木々を遠い記憶に思い出させるように、青い柱が連れ立つ。
その中にユーリもいた。かつてユーリだった放浪鯨もまたゆるやかに空へ浮かび上がって、他の鯨たちと同じように青い光を放っていた。
白い影に混じって、黒い影が光に照らされる。
「ユーリ!」
アレクは叫んだ。ユーリはさらに上昇していく。
「ユーリィィィィ!」
ジェットの放つ轟音にかき消され、その声は届いていないのかもしれなかった。
そう、思った。
けれど。
空に浮かぶ鯨たちのそのまた上に、一条の光が見えた。青い光。それは潮、鯨の吹かす排気の光だった。
「ユー……リ……」
きっともう逢えない。それでも、それは再会の約束だった。
もう一閃、空に光が走った。ユーリはバランスを崩したが、しかしその両脇にいる鯨がその身体を支え、空へと押し上げてやっていた。
今や全ては逆だった。ユーリは孤独ではない。でも、だからこそユーリは去っていく。
けれど、アレクにはそれでよかった。ユーリは夢を叶えてくれる。他の誰でもなく、アレクの夢を。
アレクはもう孤独ではなかった。
だからこそ、潮を吹いて答えを返すともだちに、その家族に、旅立つ鯨たちに、アレクは真っ赤な目でにっこりと笑って――
「いつか、どこかで! きっと、きっとまた逢おう!」
決して叶わない、約束を叫んだ。