- The rest stories of "Project Eva"

#47 - "屋根の上のチェロ弾き"

 

1人の男が街の業者の仲介で新しく乳牛を1頭仕入れ、村にある自分の家の牛小屋に引いて帰る途中であった。道から逸れたところから急に土地が落ち窪んで、野原を見下ろせるところに差し掛かった時、彼はその野原に3組の男女を見た。こんな遠くまで、と彼は思った。3人の女性は自分の娘だったからである。

長女が一緒にいる男は村で一番貧しい男だった。父親は眉をひそめた。

次女が一緒にいる男は村の孤児だった。父親は顔をしかめた。

三女が一緒にいる男は村の男ではなかった。父親は眼を背けた。

妻には娘をもっとしっかり監督するように言おう。そう思いながら彼は乳牛を引いてその場を過ぎた。

村までだいぶ近くなったところで1軒の廃屋のそばを過ぎる時、頭の上から音楽が降ってきたので見上げると、屋根の上に奇妙な形の人影があった。奇妙な形に見えたのは芸人の衣装を着込んだ上に大きな楽器を抱えていたからだというのが分かった時、彼がチェロ弾き芸人であることも知れた。最近流れてきて、この廃屋を当座のねぐらにしようと決めたのだろう。世の中から逸脱したところで生きてきた者特有の顔つきで見下ろしながら、手を止めて言ってきた。

「1曲弾きましょう! あなたの前途に祝福があるように!」

「いや、悪いが持ち合わせがなくてね……」

ところがそんな返事にもかまわず屋根の上のチェロ弾きは音楽を再開する。別にこちらが頼んだわけじゃないからなとお金は払わず、とは言え耳をふさぐでもなく再び家路に着く男だったが、彼の姿に自分と家族、そして自分たちの同胞を重ね合わせないではなかった。

「まったく俺たちの暮らしはあの芸人と似たようなもんだ。喜びはあるが気をつけないと転落する……」

"Oritur sol et occidit...Nihil sub sole novum"

第3国際連合1の広報担当官の顔が世界中のブラウン管から同時に事務総長からの重大発表がある旨を告げ、そして事務総長の沈痛な面持ちに切り替わった。神話2に因みゲンドウの名を持つ3事務総長4ウ・タント・ゲンドウは、手にした紙のうえの文字をなぞりながら、言葉を違えぬよう一句一句噛み締めながら、その事実を世界に発表した。

「全世界の皆さん。大きな悲しみをお知らせしなければなりません。法王5さまが亡くなられました」

次いで人類補完教会6の広報担当者である高位聖職者、やはり神話にちなんだ名を持つリツコ・ドゥエーズ枢機卿7が画面に現れ、説教で慣れたよく通る声で、故法王の遺徳を称える。

「その名を選んだのは自身も足が不自由だったからかもしれませんが、まさにその名にふさわしく体の不自由な人々への配慮を忘れない方でした。ここに故法王、トウジ18世の生前のさまざまな行いを振り返り、その事業を我々が引き継いでいけるよう祈ります。思えば、補完暦81197年に新たに法王として選出されて以来16年、故法王さまは……」


そのニュースはユーラシア大陸内陸部の寒さ厳しい僻地にも届いていた。

「以上、シプリアーニ枢機卿からの発表でした。新法王の選出は葬儀の後となります。新法王の有力候補は、先ほども登場されたリツコ・ドゥエーズ枢機卿、歴史学者としても著名なヒカリ・コンティ枢機卿、現代文化に対する提言でつとに知られるゲンドウ=アードルフ・ヒードラー枢機卿……」

「ヒードラーだって?」

「ふん! あの大のゼーレ9嫌いもか!」

テレビから流れてくる声に対し男が吐き捨てるように言い放つと、その他の顔ぶれもみな口々に同意の呟きを漏らした。

「やだよ、この冬の最中だってのに、追放令は……」

「それは今度死んだ法王も、その前も、そのもう1つ前もやらなかったことだ。今度も大丈夫だろ」

「いや、分からんぞ。次の法王がヒードラーだったらな……」

村でたった1軒の酒場は、重苦しい雰囲気に包まれた。

「……祈ろうぜ」

「ああ」

「親父さん、勘定」

「つけとくよ。今日はこのまま店じまいだ。私も祈りたいんでね」

酒場の玄関からぞろぞろと出て行く酔客。最後に店の主人が、テレビと照明を消し、ドアに鍵をかけて客たちの後を追った。

 

世界を裏切った組織として憎まれる民、ゼーレ。彼らはサード・インパクト後、世界中に散った。そして彼らは待っている。人類補完教会が奪ったと彼らが信じる真の補完の時を、そしてそれをもたらす使徒を10

「明かりがまだついているぞ。中にいらっしゃるんじゃないか?」

この村の中心に建つ聖堂。一同がその前に着くと、偶々先頭に立っていた男がドアをノックした。

「はい、はい。待っていてくだされ」

中からくぐもった声が聞こえ、ガチャガチャとかんぬきを下ろす音がした。そしてドアが開き、中からはしなびた顔の小さな老人が現れた。

「こんばんは、先生」

「おお。みんなそろって……あのニュースか」

聖堂付きの教導者として村人から先生と呼ばれるこの老人もテレビは見ていた。彼が見ていたテレビの画面には、人類補完教会本部の集会場に集まり、故法王の死を悼む多くの人々が映し出されていた。

祈るという言葉が出てきたゼーレと違い、一種の科学宗教の組織である人類補完教会は祈らない教会である。かれらの理論はあくまでこの世のことの説明に終始しており、例えば人間の死後については教会員の間で多様な考えがあった。それゆえ教会としては祈るということはしなくても、死に際してその死を悼む姿勢をとることは許容していた。

巨大なドーム型天井、その下には数万人を収容できる聴衆席がある。しかし、今この集会場にいる人間の数はその席数を大幅に上回っており、席に着けなかったものは通路にシートを敷いて座っていた。その前の演壇には誰も立っていない。しかし、世界中の教会員のほとんどは、そこに在りし日の故法王の姿を思い出していた。その後ろの壁の上方高くには、サード・インパクトの日、ゼーレによって空中にはりつけられたエヴァ初号機の像が掲げられていた。

そんな光景を思い出しながら、老人は村人と向き合っていた。

「はい。みんな、嫌なことが起きないように祈ろうかと……」

「左様か。殊勝な心がけじゃな。入りなされ」

聖堂と言っても貧しい村のこと、数少ない村人全員が入る程度の大きさでしかない。大して奥まっているわけでもない一番奥の壁には、なけなしの金をみなで持ち寄ってなんとか作り上げた鉄の十字架が掛けられ、そしてそれに白い磔刑像がはりつけられている。その顔は仮面で隠されており、その仮面の表面には逆3角形と7つ目が描かれていた。

一同はその前に跪く。そして、ゼーレの言葉で祈りを捧げ始めた。

「今は隠れておられる、真の使徒さま。原罪の穢れを世界から洗い清めるその時まで、私たちをお守りください……」


数日後、酒場に仕事を終えた村の男が入って来、友人がすでに来ていてウォッカの紅茶割りをすすりながらテレビにかじりついているのを見つけた。

「どうだ。今日のニュースは」

「選挙開始は2週間後だってよ」

「ふん。こうなって見ると、前の法王は悪いやつじゃなかったな」

「言いたいことは分かるさ。好きじゃなかったがね」

「ゼーレの者でやつらが好きな人間なんているかい」

テレビ画面が切り替わり、故法王の生前の姿が映し出された。制服の姿で各国を訪れ、再生された世界で人類がどう歩んでいかなければならないかを説いて回るアフリカ系の男性。演説がうまいことで知られ、特にサード・インパクトで全人類が一度一つになり、そしてまた個々の人間として再生したことの意義を語らせれば、右に出るものはいなかった11。テレビの中のトウジ18世は、目の前の一人一人だけでなく人類の全てに呼びかけるように語っている。

『その時、人類は一つになったのです。そしてそこから我々の先祖は帰ってきました。それはこの世で生きることが本当に生きることだからです。しかし、先祖たちが、この一つになった体験から、この世に持ち帰ってきたもの、そしてこの体験により、私たちがより一層深く知っているものがあります。それは……』

(言われんでも分かっているさ、そんなことは)

ゼーレが目指していた理想を人類補完教団の前身であるネルフに奪われた、そう信じている2人が苦い顔になっていると、ドアが開く音が聞こえた。

「お、キール、珍しいな」

ゼーレの中では殉教者と崇められているキール・ローレンツの名を持つ中年男が入ってきた。村の牛乳屋のキールである。どちらかと言うと大柄で顔もいかめしい男だったが、そのいかめしい顔が今日はいよいよ苦りきっていた。しかし、今の状況のこともあるので2人の男は大して気にせず、自分の隣の席にキールを招いた。

「そう言えば、おめでとうを言わなくっちゃな」

「なにがめでたい?」

「隠すなよ。肉屋のドーキンスの後添いに片付くんだろ。お前の娘が」

世界中に分散し、狭いコミュニティーを作っているゼーレの村々では、結婚は個人の自由な決定にゆだねることができない。ゼーレの中で結婚可能な相手を選ばなければならなず、また家庭を持って子孫を儲けることはコミュニティーの存続に関わる重大事だからである。それゆえ結婚は、聖堂の管理者の立会いの下、当人の親と親との間で取り交わされる約束により、計画的に成立することになっていた。

キールがその長女リツコを裕福な肉屋のドーキンスに是非後添いにと望まれて承知したというニュースは、耳の早い人間には広まり始めていた。

「そりゃあ、あいつは確かに歳だが金持ちだぜ。商売と来たら村の外にも得意先がいるくらいの手広さだ」

「ああ、そのことなんだが……どこまで広まっている?」

「そうだな。まあ、明日には村の全員が知っているんじゃないか? 俺にその話を教えてくれたやつは、ドーキンスんとこの小僧から聞いたって話を聞いてきたって言っていたな」

「おれは、昼間、かみさん連中が話しているのを通りすがりに聞いてきたんだ。ありゃあ、きっと、キール、お前のかみさんからだぜ」

「ナオコか……今頃、それを打ち消して回っているだろうな」

「打ち消すって、破談になったのか?」

「ああ、さっき、ドーキンスんとこに婚約解消を申し入れに行ってきたとこだ。……あいつが怒ったのなんの……」

「いったい何があったんだ? こんないい話を蹴るなんて」

「そうだぞ。ゼーレであんな裕福な男はめったにない」

「俺だって、この話、つぶさずにすむならそうしたかったわ。しかし、リツコに他に好きな男がいた」

「なんだって?」

「親に内緒の付き合いか? お前気づかなかったのか?」

「俺は父親だぞ。一度そいつと一緒にいるところを目にしてな、それ以来ナオコとそれとなく注意していたら、どうも危ない。どうも本気らしい。だから金持ちとの縁談が持ち上がった時、さっさとそこに片づけようと思ったんだ。だが、リツコが親の決めたことにあれほど抵抗してくるとは思わなかった」

「おいおい。娘の言うことを聞いて、一度決めた婚約を破棄したのか?」

「どうしようもないだろう。父さんのせいでわたしは一生不幸だとか、彼と一緒になれないんなら、ドーキンスのところに行っても一月経たないうちに死んでしまうとか、言われたら……」

「うーむ。時代は変わったなあ」

「そうだな。俺たちの頃だったら、結婚すれば自然に情が湧いてくるもんだ、なんて言われていたが」

「ま、それは今よりも親が結婚を決めるのが早かったせいもあるか。俺のところはかみさんはまだ19だったし」

「うちも同じようなもんだな……リツコはいくつだっけ?」

「30だ。知ってるだろう。ナオコのお袋の面倒を見させていたから、結婚が遅れちまったんだ」

だからせめてもの償いにいいところに縁付けようと思ったのに、とますます苦虫を噛み潰した顔になるキール。

「そうだっけな……で、相手は?」

それを聞かれるとキールの顔がさらに渋面になった。

「仕立て屋のマコト・メンデル」

「メンデル? メンデルだって!? あの村で一番貧しい!?」

「そりゃ、確かに悪いやつじゃないし、歳から言ってリツコとつりあいはとれちゃいるが、今時ミシンも持ってないくらい貧乏な?」

「そう貧乏貧乏言うな! リツコがなんであいつに惚れたのか、俺にも分からん!」

そう言うとキールは立ち上がった。

「忌々しいがドーキンスとの婚約は破棄で、リツコはメンデルと結婚させる」

「結局、結婚式はするんだな」

「ああ。相手がドーキンスじゃなくてメンデルだってことを、みなに伝えといてくれ」

「分かった。みなに言っとくよ」

ドアから出て行くキールの背中を見送ると、残された2人の1人は呟いた。

「何も飲まずに行っちまった。よっぽどまいってるな、ありゃあ」

テレビからは故法王の演説がまだ流れていた。

『みなさん、愛は何よりも大切なのです』

 

キールは夕闇が濃くなりつつ村の道を、家に向かって歩いていた。

「お隠れの使徒さま。こんな忌々しいことが起きるのも、あなたはご存知だったのでしょうかね。……だったら、これも悪いことじゃないかも……思えば俺もナオコと一緒になった頃は、自分の財産みたいなものはこれっぱかしもなかったっけか……否。とんでもない。俺たちは親が取り決めた結婚だった。自分の財産はなくても俺とあいつの親が支援してくれた分、リツコが生まれた時だってちゃんとした医者を呼んでやれたぞ。結婚すれば子どもができる。あのメンデルではどこまで準備できるかな。赤ん坊の服やむつきは端切れで何とかするだろうが……しかたない、そうなったら助けてやるか……誰だ、ありゃ」

家と家の間の影から誰かが呼び止めるしぐさをしてきたのに気づいてキールは歩みを止めた。

「私だ、キール」

まだ明かりが残っている中に制服の男の姿が現れた。

「なんだ。あんたか」

この村がある地域にも人類補完教会の支部があった。人類補完教会と各国各地域の行政との関係はさまざまだったが、この地域の場合はかなり強く結びついており、人類補完教会が治安維持を理由に警察を直接指揮することすらあった。キールにあんたと呼ばれた制服の男、コウゾウ・マーグリスは警官隊を率いる隊長であった。つまり、このゼーレの共同体の監視役でもある。

「できるだけ住民に嫌な思いをさせたくないのでね。隠れていた。……よくない知らせがある。前の法王ができるだけ融和策をとっていたのは知っているだろう。そのことで、君たちを嫌っている連中が抑えられていたことも」

「ああ」

「だが、そのたががなくなった。この村に治安維持12に出ろ、と命令があった。それも一月以内に……命令を出した連中の頭がどうなっているのかはしらんが、命令には従わざるを得ない。老人、子ども、女性は標的にならないよう夜間の外出は当分控えてほしい。あと、高価なもの、壊れやすいものはできるだけ家の奥に隠しておいてくれ。壊すのは外に出ているもの、目に付くものだけで済むようにする」

「ありがたいことだな。あんたは親切だ」

「皮肉を言わんでくれ」

「本心だよ。人類補完教会の信者にしとくにはもったいない」

コウゾウはそれ以上何も言わず背を向けて去っていき、そしてキールも幾分持ち直していた気持ちがふたたび重くなったのを自覚しながら、家路に着いた。


2週間後、新法王選挙の会議が始まったというニュースが流れた日の日没後、めったに焚かれることのないかがり火がゼーレの村を彩った。婚礼の夜である。

「警官隊の隊長に警告されたんだろう? 大丈夫か?」

という声もあったが

「今できることは今しておかないと。満月は一月に一度だしな」

という意見も多く、これまでの慣わしどおり、日が暮れてからの挙式となった。

まず聖堂で教導者の司式と立会いの下、白い磔刑像が見下ろし、村人たちが見守る中、誓いの儀式がなされる。そして全員で夜空の下、柵に囲まれその中がかがり火で照らされた外の広場に出、新郎と新婦が親たちから、メンデルの両親はすでに他界しているのでキールとナオコから渡された同じグラスで酒を飲む。夫婦としての最初の共同作業であり、固めの杯でもある。居並ぶ村人たちだけでなく、夜空の月も証人であった。

「白き月もご照覧あれ。そして」

教導者の言葉に従い、新郎マコト・メンデルはグラスを地面において足をかける。

「新郎新婦、そしてみな、喜びの最中にも黒き月を忘れるな」

メンデルはグラスを踏み砕いた13


かがり火で明るいゼーレの村を見つめ、嗜虐的な笑みを漏らす影があった。同じような影の群れを従えている。笑みを浮かべている影はその表情のまま、少し後ろで、こちらは沈んだ顔つきで村を見つめている別の影を振り返った。

「隊長。いいタイミングだと思いませんか」

「…………」

「行きましょう。報告書には夜間の騒動を鎮圧したと言えば理由になるでしょう」

「理由? 君がほしいのは口実だろう?」

警官隊副隊長の様子に顔をしかめながらコウゾウ・マーグリスは半ば無意識に言い捨てた。

「お。引用14ですか? さすがですねえ。じゃ、『理由は存在すればそれでいい』とでも言っておきましょうか」

そう言って公用のオートバイのエンジンをかける姿を見ながら、コウゾウはこの部下のコモンネームがゲンドウであることを思い出していた。

「では、全員『……出撃』」


「お姉ちゃん、綺麗よ」

「本当。マコトさん、お姉ちゃんをお願いね」

妹たちの祝福を受けながらメンデルとリツコが並んで席に着き、その両側にキールとナオコがおり、そしてドーキンスが、腹立たしいこともあったが水に流そうと言って仲直りの印に見事な牛肉を新婚家庭へのプレゼントとして示していたその時、それは起きた。

エンジンの爆音。硬直する全員。子どもを抱き寄せる親。妻のそばに立つ夫。新婦の手を握る新郎。新婦の妹に駆け寄る村の青年。そして。

突き破られる広場の柵。黒い鉄の馬に乗った、人狩りの死神。ゼーレの者ならみな昔語りに聞いている迫害者の姿。今の世紀にはそれは警官隊の制服をまとったバイク乗り。

テーブルはひっくり返り、この日のために用意された料理は飛び散り、祝福のための贈り物は土にまみれ、新たな友情の証たるべき祝いの品も奪われ……

広場を荒らし尽くした群れがそこからさらに通りに流れ出ようとしたところで

「よせ!」

制止の声。不満げに振り返る影たち。

「もう十分だ。署に戻る」

コウゾウはすぐ近くにいた副隊長の顔を見据えながら言った。副隊長は一瞬歯軋りをするような表情になったが、すぐに冷笑的な表情になり全員に見えるよう手で合図した。

影たちは再びエンジン音を響かせて、入る時に破った柵から流れ出ていく。副隊長が走り出て行った後、コウゾウは良心の呵責と、警告したのにこのような祝宴を開いたことへの苛立ちなどが入り混じった表情でキールに目を向けた。キールからも怒りと失望に満ちたまなざしを受けた後、コウゾウはバイクのエンジンをかけ、隊員たちの後を追っていった。

エンジン音が遠ざかっていくのを聞きながら、キールは広場の全員に振り返った。その中には披露宴を台無しにされた娘夫婦もおり、泣く娘の頭を抱いて慰めている妻もいる。

「片付けよう」

キールは泥まみれになった贈り物を取り上げた。

「壊れていなければ、洗えばいいんだ」

その言葉をあざ笑うように、エンジン音が去って行ったほうから、歓声と破壊音が聞こえてきた。

「俺の家のほうだ」

何人かが血相を変え、駆けていこうとするが止められる。

「隊長の話じゃ、家の中までは入らないということだ。軒や庇や窓は修繕しなきゃならんだろうがな」

「火が!」

1人の男が指差す先では火の手が上がっていた。続いて村の外に出て行くエンジン音。

「消火だ!」

村の消防団を結成している青年たちが駆け出していく。手伝いのためにまだ元気が残っているものが付いていく。キールの次女の手を取って支えていた青年も、次女が気になるようだったが三女に促されて後ろ髪を引かれながら駆けていった。

キールも付いていこうとしたが、あんたは娘夫婦と一緒にいろとその場に留められた。

荒らされた祝宴の場にキールの家族だけが残る。妻と娘夫婦、そして次女と三女。緊張の糸がきれたのか次女がすすり泣き始め、三女は次女を抱き寄せ守るようにして慰める。キールは月を見上げた。その口がかすかに動いたが、それを見ていたメンデルには「なぜ」と言ったように見えた。


数日後、キールは荷車を引き中身を空けられた牛乳缶を回収して歩いていた。

「なぜ、私たちの生活はこうなんでしょうねえ……本当に困ったことばかりですよ。うちよりいいところに片付けようと思った娘はうちより貧しい男に縁付くし。それに…」

テレビで見たばかりのニュースを思い出していた。新法王はまだ決まらないとのこと。広報担当者の発表によるとヒードラー枢機卿とコンティ枢機卿、ドゥエーズ枢機卿の間で票が割れているらしい。コンティ枢機卿は歴史家として穏健な考えの持ち主、ドゥエーズ枢機卿は機会主義者だが、人類補完教会と異なる信条に対してヒードラー枢機卿よりはましな考えを持っていた。票が割れているということは、現在人類補完教会内でヒードラーと同じ考えが一定の勢力を持っていることを意味する。

「最悪が避けられさえすればいいと願うばかりです、使徒さま。我々を迫害する連中ですが良い決断がなされますように。それに……」

キールは先日見た光景を思い返した。あれは乳牛を引いて街から戻る途中だった。

そこで見たのは3組の若い男女。1組は自分の長女と今は長女の婿である男。1組は自分の次女と、長女の不幸な披露宴の時次女の傍らにいた青年。キールは彼のことを彼が子供のころから知っていた。この村の孤児である。ゼーレへのヘイトクライムで両親をなくしていた。頭がいいので聖堂の教導者に目をかけられて援助を受けながら村の外の大学に通っていた。貧しい村の聖堂から出るお金だけでは学費の捻出は不可能なので、かなり前から(つまり相当「若年」のころから)新聞社や雑誌社でライターのアルバイトをして日銭を稼いでいるが、境遇への恨みからかゼーレの待遇改善を求めて過激な議論を展開するので警戒される反面、そういう文章を叩かれ役として欲しがる編集部には重宝されてもいた。

そして最後の1組は三女とその時は見覚えのなかった男。今はその正体をつかめている。それは……

「こんにちは、キールさん」

天に向けていた目と注意を地上に戻すと、記憶の中にいた青年が正面に立って挨拶してきていた。村の孤児、次女と共にいた男、シゲルである。急に不機嫌な顔になるキール。

「なんだ、お前か」

「なんだはひどいなあ。名前で呼んでください」

「知っているから一々呼ぶ必要はない」

そのまま通り過ぎようとするキール。だが、シゲルは後から付いてくる。

「なんで付いて来るんだ」

「用があるからですよ」

「こっちにはない」

「こっちにはあるんです」

「お前は小さい時から理屈っぽかったが、大人になってからいよいよ理屈を言うようになったな」

「理屈をこねるのはゼーレの伝統でしょう。人類補完教会との長きにわたる論争……」

「お前の理屈は祈ることを忘れた者の理屈だ。現在に留まっている15。未来から自分を振り返るということを忘れているだろう」

「我々は現在に生きているんですよ。使徒は来るかもしれないが、いつ来るかは分からない。だったら、自分たちが今できることをする。そういう生き方を選ぶ人間がいたっておかしくはないでしょう」

「お前の両親が今まで生きていたらなんて言うと思う」

「両親が生きていたら、ここまで過激にはならなかったでしょうね。過激というのは周りが言っていることで、俺はこの生き方が理の当然だと思ってますがね」

「用があると言ったな。どんな用であれ、俺は聞かんからな」

「お父さん」

娘の声に背後と足元に向けられていた注意が前方に戻ると、次女のマヤが三女のレイに付き添われて立っていた。今声をかけてきたのはマヤではなくレイの方。もともと万事気後れする性質の娘で、レイに手を引かれてやっとここまで来たらしい。

「ふん。やはりな」

キールは娘と背後の青年、シゲルを見回しながら、忌々しげに呟く。

「やっぱりご存知でしたか」

「誰だと思っている。こいつの父親だぞ」

「お父さん、お願い」

「ダメだ、ダメだ! 知っているだろう。こいつは現実を変えると言って不穏なことばかり言っておる! 何をしでかすか分からん! ゼーレの理念からも逸脱しとる! そんなヤツに大事な娘をやれるか!」

「キールさん」

「黙れ!」

「姉さんはいいのに私はだめなの?」

「しかしだな……」

レイも姉と姉の恋人に加勢する。

「お父さん、お願い。お姉ちゃんがここまでしているのよ。気持ちを察して上げて」

そう言われてキールは一瞬たじろぐ。だが

「くどい!」

すぐに頑なさの仮面をかぶって3人から目を逸らし、そのまま車を引いて立ち去った。


「ねえ、お父さん」

「ダメだと言っているだろう」

牛小屋で牛に飼い葉をやる手を止めず、それどころか顔も上げずキールは拒絶する。ここにはマヤもシゲルも入ってきておらず、レイだけである。

「お前もマヤの性分は知っているだろう。あいつはもっと落ち着いた男と一緒になるほうがいい」

キールはそれには反論が返ってくると思っていた。

「うん。正直、私もそう思う」

片眉を上げるキール。

「お前……なら、なんであの2人の味方をするんだ?」

そう言いながら一つ思い当たった。小さい時から悪知恵の利くこの末娘らしい考えだ。

「ははーん。お前自身の結婚もうまく運ぼうと思ってるな?」

「へへ……分かる?」

「あいつらがいる時にも言ったが、俺はお前たちの父親だぞ。そして、お前はダメだ。マヤよりもダメだ」

あの時一緒にいた男の素性をその後突き止めていたので、これだけは絶対譲れんという顔でキールは、普段から勝気でわがままな末娘をにらみつけた。この娘だけはいつも最大級のわがままを言ってくる。

「なんでよー」

「分かっているだろう。お前の相手は俺たちとは違う……どこがいいんだ? 俺たちを迫害してきたヤツらの一人だってのに」

「シンジは私のことわけもなく嫌ったりしないもん」

「分かるもんか。遊びのつもりかもしれん」

「シンジはそんな子じゃないもん」

「だからな……確かにお前の言うとおり、その男は俺たちを差別していないかもしれん。しかしだな。そいつの周りの人間はどうだ? 例えばそいつの親は? 親戚は? ゼーレと縁続きになるのを補完教会の連中がすんなり認めると思うか? それとも、そいつはつながりを全部捨てて、自分もゼーレに入るつもりなのか?」

「……それは、多分、無理」

「じゃあ、どうするんだ? お前がゼーレから出るというのか?」

冗談めかして首をかしげながら問いかけるキール。こう言えば自分の言っていることが筋の通らない不可能事であることに気づくだろう。そう楽観していた。

「………………ねえ……ゼーレって、本当に、正しいの?」

キールの顔から表情が抜け落ちる。

「……何を言う」

「言ったとおりの意味よ」

「何を吹き込まれたんだ?」

心持青ざめた顔でキールはレイに迫る。

「外じゃみんな言ってるわよ。ゼーレがサード・インパクトを起こした。再生者シンジの心を壊して、そうなるように仕向けたんだって」

「レイ!」

気がついたときには手が出ていた。

「お前は、お前は自分の先祖が信じられないのか?」

打たれた頬を押さえながらレイはキールをにらみ返す。

「その先祖のせいで今、私たちがこんなに苦しんでるんじゃない! どっちが正しいかなんて関係ないわ!」

「もういい! とにかく許さん!」

真っ赤になったレイの左頬から目を逸らし、キールは憤然として牛小屋を後にした。レイがすすり泣く声がかすかに聞こえた気もしたが、それに心動かされた風を見せず、そのまままっすぐ家に入る。

「今、帰った!」

「まあ、あなた。そんなに大きな声を出して。お隣にまで聞こえますよ」

キールが家の奥に向かって怒鳴ると、奥からナオコが前掛けで手を拭きながら顔を出した。

「ふん! マヤと言いレイと言い、いったいどうなっとるんだ!」

「あなた」

気遣わしげに台所を振り返るナオコ。だがキールはそれに気づかず

「2人とも勝手なことを言いおって! リツコの言い分を聞いてやったら、今度は2人ともわがままを言い出しおった」

「あなたったら」

「今まではリツコもマヤも、わがままを言ったことのない娘だったのに、おかしな本でも読んだのか、外の自由恋愛にかぶれたのか、俺たちの共同体は分断されて小さいのだ! その中でみなが勝手気ままに恋愛し、結婚したらどうなる! 結婚できない者が出たら? その分だけ共同体のメンバーを増やすチャンスが減るじゃないか。自由恋愛? 三角関係が日常茶飯事になってみろ。共同体の結束はどうなると思ってるんだ!」

「あなた……マヤが帰ってますよ」

キールは妻がこっちにいるのに台所で炊事の音が続いていることに気づいた。気まずい思いでぶつぶつ呟きながらナオコが入れた紅茶に手を伸ばす。

「あ。ちょっと台所に」

すすり泣きの音が鍋の煮立つ音に混じっているのを感じたナオコはキールを置いて台所に戻った。キールが台所へのドアを睨み付けていると、再びナオコが出てきた。

「ねえ。あなた」

「なんだ」

「マヤのことなんだけど、許してあげられないかしら」

妻がそんなことを言い出すとは思っていなかったキールは眉を上げる。

「リツコが私の母の面倒を見てくれていた分、うちの中のことはあの子が助けてくれたから……リツコにも負い目を感じていたから、苦労しないところにお嫁に出すのがあの子への埋め合わせになる、そう思っていたけど実際は違ったでしょう? 一度そういうことが分かっちゃうと……」

「伝統はどうなる。俺たちの共同体を守るために伝統はあるんだぞ」

「でもあの子は誰ともまだ婚約してないわ。だからあなたさえ承知すれば誰とでも結婚させて上げられるのよ。婚約破棄をしなきゃならなかったリツコよりましじゃない?」

「ぐむ……だが、それにしても相手がな」

「ねえ、キール。わたしたちあの子にも苦労をさせてきたのよ」

それを聞いてキールも黙る。思えば自分を主張することのないこの娘の性分のおかげで、親としても随分助けられてきた。姉と妹に挟まれて、年下としての苦労と年上としての苦労の両方を味わいながら、黙って妹に譲り、姉を立てて生きてきた娘だった。姉には妻の母の面倒を見てもらっていたが、その分家の中で長女代わりになってきたのはマヤだ。それが今日のように自分の気持ちを、妹に手を引かれながらも、面と向かってはっきり口にしたのは初めてではなかったか。

キールは気づかない間に台所から出てきていたマヤとおそらくナオコに言われて台所に潜んでいたのだろうシゲルとを、知らず知らずのうちに見つめていた。そして口を開き

「もっと、お前にはわがままを言わせておくんだったな……許そう」

「お父さん! ありがとう」

「ありがとうございます、キールさん。決して後悔はさせません」

「後悔だと? もうしとるわ」

ところがその後悔から婚約を撤回しようと思ったとしても手遅れだった。シゲルは玄関のドアに駆け寄り、勢いよくドアを開くと宣言したのである。

「花嫁の父親が結婚を許したぞ!」

つづいて上がる若者たちの歓声。シゲルの学生仲間が家の外にいつの間にか集まっていたのである。家の中で目を剥くキール。妻にお前知っていたかと目配せするがナオコも首を振る。マヤが口をもごもごさせて「レイが」と呟くのを聞き、なるほどと納得するキールとナオコ。

シゲルは友人たちの輪に飛び込んでいき、親しみのこもった手荒い祝福を受けてもみくちゃにされる。キールはその学生たちの顔を見渡すが、知らない顔ばかりだ。大学は同じだがよその村のゼーレであるということが分かった。

「ありがとう、結婚式には来てくれよな……なんだ、リョウジ? その格好は?」

友人たちの中でたった1人だけ旅装の青年を見つけ怪訝な顔をするシゲル。

「いやーすまん。ダメだろうと思っていたから予定を入れちまったよ」

リョウジと呼ばれた青年は、本当はそんなこと少しも思っていなかったという表情で軽口を言う。

「おいおい、ひどいぜ。結婚式にも間に合いそうにないのか?」

「ああ、遠くだし、長引きそうなんでね」

「勉強も大概にしろよ。お前も嫁さんを探せ」

「ああ」

その返事を聞くか聞かないかのうちにシゲルはもう別の友人との話しに移ってしまっていた。彼らはみな1組の自由恋愛カップルが結婚の許しを父親から勝ち取ったことに酔いしれていて、仲間の1人の表情に潜んでいた微かな暗さに気づかなかったのである。

 

その晩、キールはベッドの中でナオコに声をかけた。

「……なあ、お前は俺を愛しているか?」

「何よ、急に……30年間あなたのご飯を作り、30年間服の破れ目を縫い、子どもまで生んで育てた。お風呂の支度。病気になれば看病。これが愛情でなきゃ何よ」

「ふん……」

「でも、あなた……レイはかわいそうだけど……」

「無理だ。これだけは許せん」


数日後、キールが酒場に入ると、友人二人がすでにカウンターに着いていた。

「おう。おめでとう」

「耳が早いな。またナオコか」

「ああ。今度は最初から娘の好きな相手と添わせるのかい? まあ、途中で婚約を解消して相手を変えるよりはいいだろう」

「そうそう。まあ、時代は変わるよ」

テレビからは、相変わらず人類補完教会の法王選挙についてリアルタイムのニュースが流れていた。まだ票が分かれているらしい。今後の教会の運営方針にまで議論が及んでいると、教会本部の記者会見ルームで広報担当者から発表があった後、本部の外の群衆に画面が変わる。

法王選出の瞬間にあわよくば立ち会おうと考えた旅行者や、故法王の写真を掲げる人、「ヒードラー、われわれはあなたを待ってます」と書いたパネルを持っている者や、「誰でもいいから早く決めろ」という意味の言葉を書いたTシャツを選んで着て来ている者。さまざまな顔があり、記者はそのうちの何人かにインタヴューを始めた。

「悪いほうに変わらなきゃいいがね」

どちらかと言えば排外的な感じの主張をしている市民の声がマイクを通して、テレビから出ているのを聞きながら別の友人がそう言ったその時

「なんだ今のは」

妙な音がテレビからしたのに怪訝な顔になるキール。そして

『爆発です! 爆発が起きました! 本部の会議場がある階です! 今、煙が上がっております! 壁の破片も落ちています!』

絶叫する報道記者。

「これはえらいことになったぞ」

呆然とする友人。

「いやな予感がする」

うめき声をあげて頭をかかえる別の友人。

「冗談ごとじゃなく荷造りをすませておいたほうがいいな」

「半分は隠しておけ。天井裏はダメだ。森だ。場所は分かっているだろう」

「ああ。分散させておく。無駄に終わるかも知れんが、用心に越したことはない」

 

その悪い予感が当たっていたことは、その日の晩のニュースで明らかになった。

「死んだのは誰なんだ」

ある不謹慎な期待を抱きながら村中の男たちは、酒場のテレビを取り囲んでいた。

『ゼーレの過激派「18番目の使徒」16が、本日昼勃発したテロは自分たちが実行したと、声明を出しました。「この仕事はわれわれのものである。迫害されているゼーレを教会が解放しないなら、第2第3の爆発があるだろう」という内容です』

ここで酒場の全員が嘆息と非難の声を上げた。

「おめでたい連中が」

「なんてことを」

「こいつらは正統派じゃないと言っても、外の連中には通用しないんだ」

『今回のテロにより枢機卿が多数負傷しました、が、人類補完教会の発表によれば、その時枢機卿はどの新法王候補を押すかで席を分けて選挙を続けており、爆弾は』

何人かが唾を飲み込んだ。

『穏健派として知られるコンティ枢機卿支持者のグループ付近で爆発。コンティ枢機卿は死亡し、支持者の枢機卿たちも多数重傷、対立候補のヒードラー枢機卿とドゥエーズ枢機卿は無傷ということです』

再び全員から嘆息と先ほどとは違う種類の非難が上がる。

「やるなら目標を間違えるなよ」

「自分で自分と同胞の首を絞めおって」

『「18番目の使徒」の声明を受けて国際警察17は、長官による緊急会見が開かれました』

そして、国際警察長官、ロクブンギ18・ルイセンコの会見に切り替わった。

『今回の事件を受け、国際警察としましては、各国警察に緊急の司令を発令し、各国の「18番目の使徒」を徹底的に摘発する決定をいたしました。摘発、逮捕は末端の構成員、さらにはシンパ、協力者にも及びます』

村中の男たちが酒場に集まってテレビからの声に聞き入っている。全員の顔に共通する思いは「迫害が始まった」というもの。

「この村にはいないだろうな。あれのシンパが」

「いない。いたら俺が気づかないわけがない」

村で郵便局の業務を代行している男が言った。彼は村人がどこに金を送金しているかを把握している。全員が安堵のため息をついたその時、

『すでに実行犯は逮捕されています。偽名のパスポートを持っていましたが、当局のリストに過去に同様の逮捕歴のある要注意人物として顔写真、指紋と実名の記録があったので身元が判明しました。実行犯はリョウジ・クリック』

「何だって?」

キールは思わずそう言っていた。

「知り合いか?」

アナウンサーはリョウジ・クリックの所属エリア名にも言及していたが、確かにそれはシゲルの通う大学に通学するのに無理のない場所にあった。

「いや、まさか、これだけでは……」

キールが可能性に留めておこうとしていたその時、ドアが開いた。誰だと全員の顔がそちらに向くと、そこにいたには招かざる客、警官隊隊長コウゾウだった。

「シゲルという男はいるか」


シゲルは「18番目の使徒」の構成員ではない。しかし本人が構成員でなくても、新聞などに公表していた思想から、彼が交友関係を通じ「18番目の使徒』」のシンパとして協力していたという疑いを晴らすのは難しかった。世論と司直の方針により、即決裁判で危険分子の疑いが極めて濃い人物として流刑地送りがひとまず決定された19。有罪か否かは継続中の審理が終わって初めて確定するが、どれくらいかかるかは現時点では見当も付かない。全員二度と社会に戻すなという声も強く、中には死刑を今回のテロリストたち限定で復活しろという意見もあった。

この地域からの「18番目の使徒」構成員およびシンパを流刑地に移送する列車が駅に滑り込んできた。流刑される当人たちは前方の車両、そして流刑される囚人についていく家族は後方の車両20である。

警官隊がホームを分けるように張った金網のこちらとあちらで運命を嘆いたり憤ったりしながら話していた家族は、警官隊の指示でいったん引き離される。そして自分たちのところに戻ってきたマヤを、キールとナオコはなんとも言えない顔で迎えた。

「こんな形であなたを送り出すなんて……」

「後悔はさせんだと? 嘘つきめ」

「あなた……」

マヤは父親をにらむ。

「お父さん。そんなこと言わないで。わたし……わたしは後悔してないから」

「……ふん」

横を向いてしまうキール。

「マヤ。お父さんの気持ちも分かって上げて。男の人は心配するのが下手なのよ」

「俺はなにも心配しとらん!……お前がそれだけ強くなったのなら、あいつと結婚させた意味はあったのかもな」

「ありがとう、お父さん。じゃ、行ってきます」

「……途中で帰ってくるな。あいつのそばにいろ」

「はい」

「だから! 嫁ぐ娘なら言うことがあるだろう!」

「あ……今まで、どうもありがとうございました」

「……幸せにね。大変でしょうけど。手紙ちょうだいね」

「はい。お母さん、ありがとう」

抱き合う娘と母。母は、あの赤ん坊だった娘がこんなに大きくなったのかと改めて確認した。そして、どんなに辛い事があっても人生決して捨てたものではないということも。

「じゃ、行きます」

もうそれ以上、言葉は必要なかった。二人は黙って、去っていく列車を見送った。


村に戻ってきたキールとナオコは、真っ青な顔になったリツコとマコト、そして大騒ぎしている村人たちの出迎えを受けた。

「ああ、キール。レイと遭わなかったか?」

「いや? どうしたんだ」

「駆け落ちだ!」

「何!? 誰がそんなことを?」

娘を侮辱するのはゆるさんと言わんばかりの様子になるキール。だがその剣幕にも一向にひるまず村人の1人が自分の友人と自分を指さしながら言い返す。

「俺たちが見かけた。男と一緒だった。声をかけようとしたらあわてて逃げ出した。男はこの村の者じゃなかった。村に戻ってからリツコに確認すると、置手紙があったっていうじゃないか!」

あの男とか!と思い愕然としながらキールは、リツコの手が安手の封筒を握りしめているのにも気づいた。

「外部の人間と駆け落ち。それも人類補完教団の信者だって? 見ろ!」

その村人が突きつけたものをキールは受け取る。見ると新聞の号外。その記事の見出しにはデカデカと

『新法王選出さる。ヒードラー枢機卿、法王に』

先日の爆破事件で、対立候補だった穏健派コンティが死亡。支持者の枢機卿も多数死亡するという状況の中、ドゥエーズとヒードラーの票の奪い合いとなったが、このテロがゼーレへの恐怖を再燃させ、対ゼーレ強硬派としてしられているヒードラーに一気に票が傾いたということであった。

「逃げたんだ! 俺たちを裏切って」

村人の1人が叫ぶ。

「これから始まる迫害を予測して、改宗しやがったんだ!」

「見つけたら二人とも半殺しにしてやる!」

「違う、レイはそんな打算をしてない!」

キッと全員の目がリツコをにらみつける。

「相手の人を愛していたのよ、きっと……」

「そうだとしてもやったことは変わらん。補完教会の人間と。しかも、このタイミングで」

キールは新聞を握り締めて言った。手には新聞のほかにリツコから受け取った置手紙も握っている。

「お父さん……」

「俺はレイを逃げるような卑怯者に育てた覚えはない。だから、これはこの記事とは関係のない駆け落ちだ。だが、そうだとしても、もうあいつは俺たちの娘ではない」21

この言葉を聴くと、村人はみな去っていった22


その数日後、正式かつ盛大な着任式が人類補完教会本部で行なわれ、ゲンドウ=アードルフ・ヒードラー枢機卿は、新法王ゲンドウ22世となった。

『みなさん。わたしは不徳の身でありながら、選挙の結果を受けて教会の責任者の地位を受け継ぐことを決意いたしました。この選挙は、現在わたしたちの教会が直面し、勇気をもって解決に臨まなければならない問題について知る機会となりました。みなさん、わたしは世界から暴力と悲しみを根絶するために、それを生み出す誤った思想と戦うことを宣言します。これは敵に対する憎悪によってなされるのではありません。そのような思想が打破されることで、敵もまた解放されるのです……』

「敵、か……正直なやつだ」

例の酒場でキールはそう友人が呟くのを聞きながら紅茶を飲んでいた。

「俺たちだって、あいつらのこと敵だと思っているからな」

別の友人が毒づきながら言う。そこでドアが開いた。

「おい、みんな。聖堂前広場に集合だ」


「これで男たちは全員そろったか?」

キールたちが広場に着くと、めずらしく聖堂の教導者まで出てきていた。両側には支えるように若い村人が立っている。その前にはコウゾウ隊長がいた。部下たちを従え、そばに副隊長を置いている。そしてキールの顔を見、また目をそらした。

「悪い知らせだ。また、すまないと思う」

「あんたがいい知らせを持ってきたことがあるか? いったいなんだ?」

「国連総長からこの地域への直々の命令だ。同じ命令はここだけじゃなく全世界のゼーレの共同体がある地域に出されているがね……今日の新法王の着任式に合わせて伝えろということなので、今になった」

ここでコウゾウは大きく息を吸った。

「ゼーレは明日正午付けで全員、現在の生活の場から追放、土地家屋はすべて接収だとさ」

不平の呟きが村人からいっせいに上がる。

「……令状を見せろ」

「ああ」

病人も赤ん坊も含めた百数十人の運命を変えるたった1枚の紙切れを受け取り、目を通す。キールにはなじみの薄い格式ばった共通語23で書かれているが短い文面であり、また彼の民族がこの数百年間聴かされ続けてきた表現であるのでおおよその内容は理解できた。

「全人類に対し破壊活動を目論んでいる団体が定住し、安定した経済基盤を築いているという事実が確認されたため、国連世界安全保障規約24に則り現共同体の解散と成員全員の移住を命ずる」

「文面の通りだ」

コウゾウは咥えていたタバコを地面に捨てると苛立たしげに踏みにじった。

「私としては不本意だ。分かってくれ」

「不本意であっても、なにもできんのだろ」

キールのまなざしに気づき、コウゾウは硬直する。そばの副隊長がチャンスとばかりに進み出ようとしたが、それはかろうじて手で制した。だが、キールの言葉は止まらない。

「出て行け。明日の正午以降ここはあんたの監督下に入るんだろう。だが、今はまだ俺たちの土地だ。出て行け」


コウゾウの後姿が消えるころにはみなショックからは幾分立ち直っていたが、それでも途方に暮れていた。

「先生。なぜ使徒は現れてくれないのでしょうか」

教導者に向かい、マコトがつぶやく。

「わたしたちはずっと使徒を待っています。今、この時にこそ現われてくれても……」

「左様、神はわしらとすべての人類を救うために使徒を遣わされる。わしらの先祖が一人繰り上げてしまったために待ち損ねた、最後の使徒を……だが、今はではない。それぞれの場所で待つのだ」

「ああ。先生の言葉だ。さあ、みな、荷物をまとめろ。明日の正午までしか時間がないぞ」  


翌日、正午といわず、明け方には多くの村人が準備をすませてぞろぞろと旅立ち始めた。多くの村人がこの事態を、あるいはもっと悪い事態を予期して荷造りを済ませていたせいもある。また、この地域の厳しい気候から長年自分たちを守ってきてくれた家が取り壊されるのは見るに忍びないと、みな感じていたからでもある。

「さあ、行こう。わしらの先祖は何百年も世界中をさまよい、その合間に一つどころに村を作り、定住した。また出発の日が来ただけだ」

「今度はどこへ行くの」

前に旅を終えたのが祖父母の代であるにも関わらず、ナオコは今度という言葉を使った。

「いとこがドイツにいる。陸続きだし、雪で西に向かうのが難しければ黒海から船で行こう。そのくらいの蓄えはある」

全員支度を終えた。牛乳と、まだ小さかった3人の娘以外載せたことのなかった荷車に家財道具がすべて載せられ、ロープでくくりつけられた。

「重いな」

「押しましょう。義父さん」

マコトがそう言って荷車の後ろに回る。

「ああ、最初だけでいい」

よっこらしょっ、ごろり、と車輪が回る。


ごろり ごろり ごろり

荷馬車を揺らし、一向は無言で歩く。一緒だった村人も分かれ道ごとに違う道を選んで別れていく。やっとキールがとなりのナオコ、そしてまだ若いマコトとリツコに向かって口を開いた。

「なあに、ずっとこうだったんだ。それでここまでやってきた。これからだってやっていけるさ」

その時チェロの音1節聞こえてきた。聞えた方に向くと、まず見えたのが1軒の廃屋。

あの廃屋だと思い見上げると、例のチェロ弾き芸人が以前見たのと同じ表情で見下ろしていた。

「1曲弾きましょう! あなたたちの前途に祝福があるように!」

そこにはやはり社会から見捨てられていながら、その社会で生きている1人の人間がいた。

「願おうか。少ないがこれくらいはさせてくれ」

そう言ってキールは、ポケットからガマ口を出すと、硬貨を1枚、屋根の上に放り投げた。キラキラ輝く銀貨。ガマ口のなかには他にも、金色のかたまりがじゃらじゃらと詰まっているのが見えた。

「あなた。それは」

「へそくりだ。こういう時のためのな。まだ荷物の中に分散して隠してある」

「あら……実は私も」

ナオコも言った。にやりと笑うキール。リツコとマコトはあっけにとられている。

「心配せんでもいい、子どもたち。爺さんたちから聞いたことを色々教えてやるから、これからじっくり学ぶといい」

荷車を引いて一行は行く。来た道からはチェロの音が上がり下がりしながら聞こえる。

「ふむ。遠いご先祖の言葉を思い出すよ。『よい。すべてはこれでよい』」

それに合わせて奏でられる音曲。彼らの前には少なくともまだ道が続き、後から音楽が続いてくる。

- The rest stories of "Project Eva" #47 - "Violoncellospieler auf dem Dach" end.
first update: 20081123
last update: 20081125

note

About author
作者:無名の人
referencial movie
『屋根の上のバイオリン弾き』(ノーマン・ジュイソン監督、1971年)

footnote

"Oritur sol et occidit...Nihil sub sole novum"
ヘブライ語聖書中「コヘレトの言葉」のヴルガータ訳(カトリック教会におけるラテン語聖書の公式版)からの引用。中略の前は1章5節、中略の後は同じく1章10節より。全体で「日は昇りまた沈む……太陽の下、新しいものは何ひとつない」の意。
ミュージカル映画「屋根の上のバイオリン弾き」(原題Fiddler on the roof)の劇中歌の一節「サンライズ・サンセット」はこの1章5節の引用である。
1
第2次大戦後の国際連合を第1国際連合、セカンド・インパクト後の国際連合を第2国際連合とした時、サード・インパクト後の国際連合を指す、歴史学上の呼称。第1国連と第2国連が建前上は特定の宗教によらなかったのに対し、第3国連はサード・インパクトとそこからの世界の再生を契機として生まれた宗教を精神的支柱としている。
2
人類補完教会の神話。人類補完教会とその神話の内容については後述。
3
それぞれの民族固有の名前は消滅していないが、神話にちなんだ命名はごく一般的である。
4
第3国連においては加盟国の主権が国連に移譲されており、いくつかの非加盟国や反国連的な主権実体を除き、ゆるやかな世界国家が形成されている。したがって第3国連の事務総長は、第3国連の「首相」と言うべき役職である。
5
人類補完教会の最高指導者の職名。法(おしえ)の王という言葉どおり、人類補完教会の教義と理念を信者に示し、教え導く精神的指導者。
6
サード・インパクト後の世界最大の宗教。サード・インパクト後の世界の再生を契機として始まる。それまでの世界宗教との最大の違いは、開始当初から世界の半数以上が信者であった(あるいは信者となっていた)という点である。
7
人類補完教会においては、法王に次ぐ幹部の呼称。教会の枢機の事柄に携わる高位の人間(卿)という意味で枢機卿と呼ばれる。彼らは、それぞれの職掌に応じて法王の諮問者となる。また法王逝去時には彼らからなる枢機卿会議が当面人類補完教会の運営を取り仕切るとともに、枢機卿会議における互選で次期法王が決定される。
8
サード・インパクトの年を元年とする暦。作中時点で1213年。
9
ゼーレとは、かつて世界を裏から支配し、第3国連および人類補完教会の公式見解においてサード・インパクトにおける全人類LCL化を企図したとされる組織。裏死海文書と呼ばれる文書に基づいて、「人類補完計画」を立てたが、それは人類補完教会における「人類の補完」とは異なり、全人類がLCLの中で夢を見続ける状態を目指すものだったと言われている。なおゼーレは、第3国連と人類補完教会による上記の見解を濡れ衣であると主張している。
10
サード・インパクト後、第3国連によってゼーレに対する裁判が行なわれた際、ゼーレは全人類のLCL化は、人類補完教会の前身であるネルフの当時の総司令、碇ゲンドウが、その亡妻碇ユイの考えに則って立てた計画であり、ゼーレのものではないと主張したが認められず敗訴。上層部がすべて死刑に処せられた。ゼーレが望む真の補完は現在の世界でも達成されておらず、その補完をもたらす真の最後の使徒はまだ来ていないと、彼らは主張している。公式に最後の使徒とされているのは、渚カヲルと呼ばれた「第17使徒」であるが、ゼーレの主張によると彼は、当時のゼーレが碇ゲンドウの計画の進展に焦りを感じ、自分たちの手で予定を一つ繰り上げて送り込んだ使徒である。これは彼らの主張に従うなら裏死海文書の予言への人為的な干渉であり、彼らの現状はこの傲慢への罰によるものと、ゼーレでは広く理解されている。
11
サード・インパクト後の「再生者」碇シンジの国連への報告、その他の関係者の証言から、サード・インパクト時に何が起きたかという『証言集』が編まれており、人類補完教会の重要文書となっている。故法王の演説はそれに基づいたもの。
12
ゼーレは人類をLCLに変えて永遠の夢に閉じ込めようとする思想を奉ずる集団であるというのが第3国連と人類補完教会の公式見解であるため、ゼーレに対する治安維持活動とは、ゼーレの成員の生活力ないし生活基盤にダメージを与えることである。最大級のものが資産没収や追放などで、特に追放はかつては数十年に一度のペースで行なわれ、その度にゼーレの共同体はそれまで住んできた土地で築いてきた経済的地盤を失い、自費で引っ越してあらたな地盤をゼロから作らなければならなかった。ここでコウゾウが言っている治安維持は「極めて小規模の」財産の破壊であり、この手の活動は、ゼーレの共同体で祝い事や祭り事がある時を狙って行なわれることが多いが、それとは無関係になされることも少なくない。
13
教導者の言葉にある黒い月という言葉で意味されているのは、すなわちジオフロントの浮揚とその後に起きた不本意なサード・インパクト、そしてその後のゼーレの勢力崩壊であり、それに対し新郎はグラスを踏み砕くことで応答する。グラスの破壊が同じくゼーレの崩壊を意味していることは言うまでもない。婚礼の儀式のこの部分は、たとえどんな喜ばしいことがあっても、自分たちが苦難の歴史の中に生きていることを忘れない心構えを象徴している。また、この覚悟を示すことで、披露宴というお祝いに移行することへの共同体としての許可が自動的に発生し、宴会に移るという運びになっている。
14
「理由? 君が欲しいのは口実だろ?」という言葉は人類補完教会の重要文書である『碇ゲンドウの懺悔録』および『冬月コウゾウの懺悔録』に原型が見える。この手の引用、特にコモンネームの元になった人物の言葉を状況に適った仕方で引用することは、レトリックとして広く受け入れられている。
15
ここでキールが言っている「現在」とは、人の心が完全に補完されていない現状を指す。ちなみにゼーレの言う「理想の未来」は心の補完が達成された状態である。
16
ゼーレのおかれた立場に不満を抱く青年たちにより結成された過激派の1つ。必要とあれば暴力も辞さないという活動方針であり、第3国連からはテロ集団と見なされている。過去に大規模テロの前科があるため、活動を厳しく制限されており、制限が強まることでますます活動が過激化するという悪循環に陥っている。構成員ならびにシンパの数が多く、実行部隊以外に、破壊活動には携わらない後方支援者(資金提供のみの構成員を含む)や協力者(実行者をかくまうなど)が実行部隊の30倍いるといわれている。
なお18番目の使徒とは、人類補完教会の公式見解では「人間」であるが、ゼーレの見解ではいまだ来たらざる補完者である。したがってゼーレの正統派は、「18番目の使徒」を自称し暴力によって現状の改革を図るこの集団を認めていない。
17
国際警察は国連の警察機構である国際警察機構の一般的な略称。国連への主権委譲が行なわれている時代を反映し、国連所属各国の警察への指揮権や、直接捜査を行なう権限を持っている。
18
ロクブンギは「痛悔者」碇ゲンドウの旧姓六分儀に由来するコモンネーム。コモンネームにおいては、イカリ、イブキなど本来姓であるものも名前として使用される。
19
ゼーレによる世界転覆活動容疑に関しては、ゼーレと世界は宣戦布告なき戦争状態にあるという発想からゼーレであるというだけで即座に戦争捕虜として、あるいは敵国人の民間人として強制収用した事例は国際司法当局の判例にも複数回存在する。
20
厳密に言うと流刑地に送られる受刑者護送用の公用の車両に、一般に開放されている一般車両を後続しているというもの。この一般車両は流刑地に送られる受刑者の家族ぐらいしか利用しないので、実質的には流刑者の家族用の車両になっている。家族は受刑者ではないので、本来行動は制限されないが、護送車と接続されている関係上、車両内に警官が配備され移動中は監視下に置かれる。
流刑地は鉄条網や策に囲まれており、流刑者はその中から出られず、家族はその中に入れない。そのため家族は、流刑地の外に出来た流刑者の家族の町でアパートを借りて暮らし(長期刑の場合は家を買うこともある)、面会日に面会用のスペースで流刑者に会うという生活を送る。
21
家長によるこの義絶の宣言により、ゼーレの社会ではレイは公式にキールとその家族との関係を失ったことになる。
22
この翌日、ナオコが村に一番近い、人類補完教会の支部に赴き、支部の教導官に問い合わせたところ、レイと思しき若い女性とレイの恋人と思われる男性が訪れ、女性が補完教会への登録を済ませた上で婚姻手続きを取っているということが分かった。これを聞いたキールは、レイはすでに昨日義絶したと言って今更取り合わなかったという。
23
補完暦開始後の世界が数百年かけて確立した言語統一の産物。成立過程で多くの葛藤や抵抗運動を生んだものの、広範な共通語の実施と、地域独自の言語の第一優先権確保を両立することで100年ほど前にようやく達成できた。そのため、共通語ではあるがなじみが薄く自分では使えない層は社会に一定数存在するものの、自分たちの生活に関わる法令などまで理解困難というケースは珍しくなっている。
24
サード・インパクト直後に制定されたゼーレを弾圧するための規約。これが恒常的に実施された場合、ゼーレがゼーレだけの共同体を形成することは事実上不可能になる。発令者は国連だが、現実には、前法王までの数代は穏健派の法王が続いたこともあり、この規約による追放令は発令されていなかったが、対ゼーレ強硬派のヒードラーが教会のトップに座ると直ちに発令されるというように、規約の実施には人類補完教会の意向が強く反映している。
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